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『私の夫と結婚して』レビュー☆自分の人生を取り戻したい
2024年に韓国でヒットしたテレビドラマの日本版映像作品がネット配信されました。キャストの好演が光り、予想をはるかに超えて惹き込まれるドラマになっています。うまくいかなかった自分の人生をもう一度取り戻したい。そんな思い、心当たりはありませんか?
- 『私の夫と結婚して』
- 脚本
大島里美 - 監督
アン・ギルホ - 主な出演
小芝風花/佐藤健/横山裕/白石聖 - 2025年/Amazon Prime Video/#1〜#10
※以下の記事は作品の魅力を紹介するため最小限のネタバレを含みます。あらかじめご了承ください。
☆あらすじ
30代の若さで胃癌で入院中の美紗(小芝風花)は、幸せな瞬間もあった、悪くはない人生だった、と自分の人生を振り返る日々だ。病院から一晩だけの外泊を許された日、久々に夫に手料理を食べさせようと帰った自宅マンションで、彼女は夫・友也(横山裕)と親友・麗奈(白石聖)の情事を見てしまう。
その場は修羅場と化し、激しい罵り合いの末、友也と麗奈によってマンションから突き落とされる美紗‥‥。
夫と親友から裏切られていたなんて、いいことなど何ひとつない人生だった。
死の瞬間、そう悟った美紗だった‥‥。
が、気がつくと、10年前のオフィスに戻っていた。病気になる前の、そして結婚する前の、10歳若い自分となって。
ここから人生をやり直せるなら、周囲に気を使ってばかりの「脇役」のような人生はもうゴメンだ。自分の物語の「主役」として、自分の人生を取り戻したい。
だが、どんなに気をつけていても、起こる事象は前の人生と変わらなかった。行動を変えても、起こることは起こる。では、どうすれば?
思い悩む美沙。
そんな折、休日出勤した会社で、給湯室のポットをひっくり返しそうになったとき、不意に飛び込んできた人物がいた。前の人生では接点がなかった鈴木部長(佐藤健)だった。熱湯を手に受けたのは彼だった。前の人生では、火傷を負ったのは美紗だったのに‥‥。
だが、火傷の手当てを終えたあと、鈴木部長から意外な言葉をかけられる。
なぜ自分にゴミのような人間ばかり寄ってくるのか、わかっているのかと。
いい人だからではない。それはお人好しのおめでたい奴と思われているからだ、と。
困惑する美紗。
だが、気づくと思わず言い返していた。
わかってますよ。言われなくてもわかってます。
ゴミやクズを喜んで拾って、一緒にいてもイヤなことばかりで、それでもいい人生だったなんて自分をごまかそうとした、おめでたい人間ですよ。
そう言って涙を流す美沙を、鈴木部長は静かに見つめていた。
「ただ、信じればいいのです」と彼は言った。「人生は変えられると」
振り返れば、幼い頃からずっと、麗奈は親友のふりをして近づいて、自分より幸せにならないように私を見張ってきたのだ。自分より下に私がいること、それが麗奈の喜びだったのだ。
友也だって、私に優しかったのは最初だけ。彼が私の幸せを願ったことなんて一度もない。
美沙は思った。
起こることは、変えられない‥‥。ならば、登場人物を変えてしまえばいいのだ。台本が変えられないなら、キャスティングを変えればいい。私の代わりに鈴木部長が火傷を負ったように‥‥。
私の最低な人生をあなたにあげる。
麗奈、私の夫と結婚して。
美沙は、2人への復讐を誓うのだった‥‥。

☆健気なヒロインと謎多き上司
韓国では連続ドラマは週に2本O.A.(オンエアー)されるのが一般的で、日本版映像作品である本作も、それに倣って毎週金曜に新たに2本ずつ配信が始まる、というスタイルをとっています。
2025年6月27日(金)から配信スタートし、同7月25日(金)まで5週にわたって、2本ずつ最新エピソードが追加されます。7月25日以降は、全10話一気見が可能ということですね。
『パラサイト 半地下の家族』(2019年)を製作したCJ ENMと『愛の不時着』(2019年)のヒットで知られる制作会社スタジオドラゴンがタッグを組んだ、初の日本版映像作品となる本作。脚本は『凪のお暇(なぎのおいとま)』(2019年、TBS)の大島里美。監督は韓国ドラマ『ザ・グローリー 輝かしき復讐』(2022年)のアン・ギルホ。
この韓国ドラマ的世界観に日本風の味付けをした日韓協業プロジェクトで、日本のキャストが生き生きと素晴らしい仕事をしている。そんな印象をもつ傑作に仕上がっています。

主演を務めた小芝風花は、大阪府堺市の出身。
『息もできない夏』(2012年、フジテレビ)でドラマデビュー。実写版『魔女の宅急便』(2014年)でスクリーンデビューと同時に映画初主演を飾った頃をご記憶のファンも多いことでしょう。
以降、映画・ドラマ・舞台で途切れることなくさまざまな経験を重ねて、『トクサツガガガ』(2019年、NHK)で連ドラ初主演。『あきない世傳 金と銀』(2023年、NHK-BS)で時代劇初主演と、順調にキャリアを積み上げてきました。
直近では、大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(2025年、NHK)で演じた花魁・瀬川が大きな話題になりました。横浜流星演じる主人公・蔦屋重三郎の幼馴染にして相思相愛の初恋の相手。2人が花魁の年季明けに一緒になる約束を交わした第9話とそれに続く第10話は、前半のハイライト。「神回」との呼び声も高い、大河ドラマ史に残る名作となりました。
重三郎からの思いがけないプロポーズに、涙をいっぱい溜めて、小刻みに唇を震わせながら、彼を見つめる瀬川ーー。初々しさとともに、女優としての円熟味も感じられる、これぞまさに名演中の名演。2人が結ばれることはついぞありませんでしたが、別れを描いた第10話への反響の大きさが、彼女への評価の高さを物語っています。
本作でも、その繊細な表現力を存分に生かして、コミカルなシーンからシリアスなシーンまで、そつなく、破綻なく演じ分けて、観る者の心をつかんで放しません。トップ女優へと昇り詰める彼女の勢いのようなものが、本作の随所に滲み出ていると言っても、決して言い過ぎではないと思います。

神出鬼没の謎多き上司・鈴木亘を演じる佐藤健は、埼玉県岩槻市の出身。
テレビ朝日の深夜ドラマ『プリンセス・プリンセスD』(2006年)でデビュー。同局の『仮面ライダー電王』(2007年)で連ドラ初主演。同作の劇場版映画がスクリーンデビューでした。
その後、『ROOKIES』(2008年、TBS)や大河ドラマ『龍馬伝』(2010年、NHK)などでお茶の間へ浸透。『るろうに剣心』シリーズ(2012年〜2021年)、『護られなかった者たちへ』(2021年)などの代表作によって支持を拡大し続けているトップ男優です。
本作では、彼の静かで、優しく、ソフトなトーンの演技がコミカルにもシリアスにもハマり、それと同時に、亘という人物の神秘性というか、謎を深めていく効果も果たしています。
何より、揺れ動く美紗の心情とは対照的に、物静かで安定感のある彼の存在が、闇夜を照らす灯台の明かりのように、物語の進路を優しく導いてくれているような、そんな感覚になるのです。
特に、亘が実は美紗の大学の先輩で、彼にとって美紗は、大学時代に密かに思いを寄せていた初恋の人だった(美紗は彼の存在にまったく気づいていませんでしたが)ということが明らかになってくると‥‥、タイムリープからの復讐劇として始まった物語は、俄然ラブストーリーとしての色彩を濃くしていくのです。

☆生き直そうとする2人の物語
そんな中にあって、美紗の夫・友也を演じる横山裕と、親友の麗奈を演じる白石聖の真に迫ったクズぶりが秀逸です。悪役が上手いドラマは面白いーーとは、昔からよく言われることですが、本作はまさにこの格言の正しさを証明するような出来映えとなっています。
この2人の優れたヒール(悪役)の活躍あればこそ、私たちは大手を振って美紗と亘を応援することができるのですね。

そして、美紗の父親を演じる津田寛治の堂に入ったいい人ぶりもさすがで、ホッコリさせられます。
男手ひとつで美紗を育てた父ですが、この父にしてこの娘あり、というのでしょうか‥‥、お人好しで「脇役」に甘んじがちな美紗の性格はこの人からきているのだなあ、と納得すると同時に、彼の娘を思う愛情の深さを感じるにつけ、美紗には幸せになってほしいとつくづく思わされるのです(父はとっくに死んでしまっていて、回想シーンにしか出てこないのに、堂々たる存在感です)
このほかにも、信頼できる会社の上司役の田畑智子、美紗を慕う正義感強めでチョイ訳ありな部下役の黒崎レイナ、そして美紗に思いを寄せる高校の同窓生役の七五三掛龍也と、脇を固めるキャストも光っています。

タイムリープものであり、まぎれもないリベンジものである本作ですが、前述のように、根っこにあるのはラブストーリーであり、また主要人物が全員同じ会社にいることから、オフィスもの、サラリーマンものとしても楽しめるようになっています。そして、まぎれもないリベンジものでありながら、意外とコメディーでもあるのです。
この多要素を盛り込んだ脚本を、絶妙なさじ加減で料理して、破綻なく楽しめる作品に仕上げているアン・ギルホ監督の手腕も賞賛に値します。速回しなどを駆使した映像のリズム作りと、それと合わせた音楽(劇伴)の扱いが抜群で、次の配信が待ち遠しくなること請け合いです。
ところで、「謎多き上司」の謎の部分は中盤以降に少しずつ解き明かされていくのですが、それによって明らかになってくるのは、思いもよらない展開というか、事情というか‥‥。
つまり、どうやら、10年前に戻って生き直しているのは美紗だけではないようで‥‥。
考えてみれば、佐藤健演じる亘にとっても、美紗の一度めの人生では言葉も交わせず終わっているわけで。生き直せるなら、自分が「主役」に。もう一度、自分の人生を取り戻したい。そういう思いは、強くあったのだろうと思います。
だから今回は、積極的に美紗に関わって、どこにでも現れて(神出鬼没)美紗を助けて、導いて‥‥。
「あなたの幸せを願わない人間は、あなたの人生に必要ない」
美紗の背中を強く押すことになったあの言葉は、あの助言は、自分の人生を取り戻したいと願う(一度めには何も助言できなかったという後悔も込めて)亘の心の底からの叫びでもあり、同時に、すべての観客に向けられたメッセージであり、エールであったのでは、と感じます。
自分の人生を取り戻そうとする2人の物語。
惹き込まれて観ているうちに、10年前に戻らなくてもそれはできるーーそう気づかされる人は意外と多いのではないでしょうか?(もちろん「復讐」という行為そのものではなく、「強く生きる」「主役は自分」という心の持ち方、生き方について、ですけどね)
10年前に戻らなくても、自分の人生は取り戻せる。
明日からでも、なんならいまこの瞬間からでも‥‥。
そんな前向きな気分を引き出してくれる、極上のラブストーリーにして、人生の応援歌。
本作は、そうした意味でも、とてもオススメの作品だと思います。
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