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『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』レビュー☆僕らは皆タイムトラベルをしている?

(C)Universal Pictures
ファンタジーの森

時間との上手な付き合い方、それは私たちの誰にとっても重要で、極めて難解なテーマです。今回紹介するのは、そのテーマにサラリと取り組んで、人生や未来に対するポジティブで温かい気持ちを呼び覚ましてくれる、そんな作品です。


  • 『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』
  • 脚本・監督
    リチャード・カーティス
  • 主な出演
    ドーナル・グリーソン/レイチェル・マクアダムス/ビル・ナイ
  • 2013年/イギリス/124分

※以下の記事は作品の魅力を紹介するため最小限のネタバレを含みます。あらかじめご了承ください。

☆若い男女の恋物語

この物語は、都会で出会った若い男女が結婚し、子供を育て歳をとっていく過程を、イギリス映画らしいウィットに富んだ笑いを交えながら描いています。

主人公ティムを演じるドーナル・グリーソンは、『ハリー・ポッター』シリーズや『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』などで顔を覚えた方も多いでしょう。不器用だが心優しい青年ティムは彼にとってまさにはまり役では、と思わせる好演を見せています。

ヒロインのメアリーを演じるレイチェル・マクアダムスは、『きみに読む物語』(レビューはこちら)でライアン・ゴズリングの相手役を務めてブレイクしたカナダの女優さんです。演技力も確かですが笑顔が大変チャーミングで、この映画の特に前半に華やかな印象を与え、2人の青春物語にぐいぐいと観客を引き込んでいく原動力となっています。
(余談ですが、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でブレイクする寸前のマーゴット・ロビーもチョイ役で出ています。出番は少ないですが、探してみてください)

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出典:DVDパッケージより

☆しかし男性には秘密の能力が

この、普通なら恋愛もの、夫婦ものと捉えられる本作ですが、ファンタジーに分類したのには理由があります。

2人の物語を描くにあたって、リチャード・カーティス監督は「主人公ティムはタイムトラベルという秘密の能力を持っている」という仕掛けを用意したのです。ティムの一族の男性には、したがってティムの父にも、この秘密の能力が備わっているというのです(ただし自分の人生の過去と現在を行き来することしかできません)。

かくて物語の前半はSF青春コメディの様相を呈します。
ティムはせっかく出会えたメアリーにすでに彼氏がいると知ると、時間を巻き戻してその男よりも前に自分が出会うようにしたり、2人の最初の夜がイメージと違ったので3回もやり直したりします。

音楽も、この映画では重要な役割を果たしています。

3回もやり直した2人の最初の夜の直後に流れるのは、「ハウ・ロング・ウィル・アイ・ラヴ・ユー」。
ロンドンの地下鉄の構内を行き交う2人のカットが幾重にも積み重ねられます。通勤風景や、遊びに出かける場面など、時間経過とともに2人の関係が深まっていく様子がよく描かれています。
思わず微笑ましくなって、その気分にこの曲がとてもマッチしていることに気づきます。

(C)Universal Pictures

☆馬鹿馬鹿しく、愛おしい結婚式

2人の結婚式で花嫁入場のときにラジカセから流れてくるのは、イタリア人歌手ジミー・フォンタナの「イル・モンド」。劇中では、ティムも彼の父も、ともにこの曲が大のお気に入りだということになっています。

この曲が、とてもいいのです。
生きることへの情熱を熱く歌い上げているような曲調(歌詞の内容は分かりませんが、モリゾッチはそう感じました)が、たまらないのです。
劇中の2人を祝福する曲でありながら、映画を観ている我々を励ますようでもあり、人生に臆するな、情熱を持って突き進んでいけと、背中を押されているような気分になります。

この結婚式、教会の外に大きなテントを張って野外パーティが準備されていたのですが、外へ出てみると雨と風が凄まじく、テントまでの移動で参列者もみんなびしょ濡れになり、たどり着いた頃には風でテントも飛ばされて、大惨事となってしまいます。
普通この天候であれば、外へ出た瞬間に野外パーティは中止だろう、とモリゾッチなどは思うのですが、悪天候でも強行するあたりが彼ららしいとも言えそうです。

花嫁入場から引き続きジミー・フォンタナの「イル・モンド」は流れ続けていて、このびしょ濡れ大惨事のドタバタ劇で、その歌声は絶好調に達します。

観ているうちに、びしょ濡れになっている参列者の一人ひとりが、なんだか愛おしいような気がしてきます。
目の前で展開しているこの馬鹿馬鹿しい光景が、なんだかすべて愛おしい。
そんな気分に、「イル・モンド」がしてくれます。
観終わってみるとこのシーンはまるで、人と人が出会って新しい家族になるという、この世界で当たり前に続けられてきた人の営み全体を、祝福し、励まし、背中を押しているかのようです。

音楽の力って、すごいですね。

さて、急ぎ室内に場所を移して開かれたパーティの際、ティムはメアリーに尋ねます。こんな天気の日に式を挙げたこと、後悔していないか、と。メアリーは首を振ります。どうやら、びしょ濡れの大惨事を彼女は気に入ったようなのです。

という訳で、式をやり直すためのタイムトラベルはなし。
ところが、このパーティでスピーチをしたティムの父が、大事なことを言い忘れたことに気づきます。父もタイムトラベル能力があるので、時間を戻してスピーチをやり直します。
言い忘れたこととは何だったのかと観ていると、ティムの父はこんな話でスピーチを締めくくりました。

私には誇れるものは多くない。
だが、(ティムを指し)この男の父親であることほど、誇らしいことはない。

イギリス人の親子関係って、すごいですね。

まあ、正確に言うと、すごいのはイギリス人の親子関係なのか、ヨーロッパの文化なのか、リチャード・カーティス監督の親子観なのか、よくわかりませんが。いずれにしても、日本の披露宴で新郎の父のスピーチにこの言葉を想像することは、かなり困難という気がします(あくまで個人の感想です。まだまだ未熟な2人でございますが‥という例のお決まりのフレーズしか浮かんでこないもので。とんでもない、日本にもこういう親子関係はいくらでもあるぞ、という方がもしいらっしゃったら、モリゾッチの不勉強をお許しください)。

(C)Universal Pictures

☆ついに会得した「能力の使い方」

結婚して子供が生まれ、忙しく日々が過ぎていきます。
その間ティムはタイムトラベルを忘れて生活しているのですが‥‥。

物語の後半、ティムの妹が交通事故を起こし大怪我をします。恋人と喧嘩し、ひどく酔っ払って運転したことが原因でした。この恋人とはそれまでも上手くいっていなくて、この相手といたら妹は幸せになれないと感じていたティムは、過去に戻って妹とその男が出会わないようにしてしまいます。
そうして久々のタイムトラベルから戻ってみると、女の子だったはずの我が子が男の子に‥‥。

いえいえ、性転換とかいう今風の話ではなく、いわゆる違う未来へきてしまった、というやつですね。

タイムトラベルの先輩であるティムの父が教えてくれます。
子供が生まれた時より前に戻ると、(なぜか)着床する精子はその時々で変わる(?)ので、前と同じ子供のところへは戻れない(!)、のだそうです。

我らがティムの場合、じゃあこの子でいいや、とはなりませんでした。
やっぱり、生まれたときから育ててきた以前の女の子がいいのです。
ティムはタイムトラベルをする前の自分に戻り、ということは例のタイムトラベルは無かったことになるので娘は元通りで、妹の大怪我も変えられないので付き添って看病しながら、彼女の人生を立て直そうとします。

そしてこのエピソードをきっかけとして、物語は終盤へ突入していきます。
怪我から回復した妹は結局腐れ縁の彼氏と別れて新しい恋を見つけ、穏やかな日々を過ごせるようになります。今まで問題の解決にはいつもタイムトラベルの能力を利用してきたティム。しかし今回は、タイムトラベルの力を借りずに、妹の人生を立て直すことに成功したのです。

ティムは安堵します。そしてその直後、父の死期が迫っていることを知らされます。
メアリーとともに父の元へ駆けつけますが、2人きりになった折に、病を受け入れた父から秘密の能力の別の使い方をアドバイスされます。
それは、1日を2度ずつ経験すること。
問題の解決や過去を変えるためではなく、ただ何も変えずに同じ1日を2回ずつ過ごしてみなさい、と勧められるのです。

その通りやってみました。
1回目には緊張や不安で気づかなかった仕事相手の気持ちの動きや、急ぎの移動中の周りの景色の美しさなどに、気づくことができました。心に余裕ができて、今まで見えていなかった部分が見えるようになり、なかなかいい1日だったと思える日が増えていきました。
2人目の子供も生まれました。
相変わらず毎日が目まぐるしく過ぎていきますが、メアリーは元気で、溌剌としています。3人目の子供が欲しいなどと、おねだりしてきます。
なんだか毎日が愛おしい、ティムはそう思うようになりました。

そういうタイミングで、ティムの父が亡くなります。
3人目の子供が生まれる前のことでした。
子供が生まれてきたら父が生きていた頃に戻れなくなるので、父とはこれが最後という覚悟で、ティムはタイムトラベルをします。夏になるといつも家族と一緒に出かけた家の近くのビーチで、ティムは父と最後の時を過ごします。

(C)Universal Pictures

☆僕らは皆、愛おしい旅の途中

ビーチは昔とちっとも変わらず、別れを惜しむ親子を見守ります。
ビーチはずっと見てきたのだと思います。
幾世代にもわたる親子の、夫婦の、家族の営みを。
それぞれの愛おしい時間が、流れていくのを。

なんだか、このシーンでも、頭の中に「イル・モンド」が聞こえてきそうです。

こうして父の死を乗り越え、3人の親となったティムとメアリーは、相変わらず毎日を忙しく過ごしています。でもティムは、もうあの秘密の能力を使うことはありません。
彼はこう思うことにしたのです。

自分は未来からやってきた。
ただし、今日という日に戻ってくるのはこれが最後なのだ。

僕たちはみんな一緒に、過去から未来へと後戻りできないタイムトラベルをしている。
愛おしい旅を続けている。
そのことに、彼は気づいたのです。

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モリゾッチ

モリゾッチ

10代からの映画熱が高じて、映像コンテンツ業界で20年ほど仕事していました。妻モリコッチ、息子モリオッチとの3人暮らしをこよなく愛する平凡な家庭人でもあります。そんな管理人が、人生を豊かにしてくれる映画の魅力、作品や見どころについて語ります。

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