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『レオン』レビュー☆正しく生きたいと願って

出典:rakuten.co.jp 本作BD画像より
アクションの森

凶暴な純愛、というのが日本公開時のキャッチフレーズだったそうです。
今回はリュック・ベッソン監督のこの作品を取り上げようと思います。
まずはデータです。


  • 『レオン』
  • 脚本・監督
    リュック・ベッソン
  • 主な出演
    ジャン・レノ/ナタリー・ポートマン/ゲイリー・オールドマン
  • 1994年/フランス・アメリカ/133分

※以下の記事は作品の魅力を紹介するため最小限のネタバレを含みます。あらかじめご了承ください。

☆あらすじ

主人公はレオンという名の殺し屋です。
殺しの腕は一流です。あまり喋りませんし、あまり表情を変えません。
ニューヨークの安アパートに独り住まい。友達もなく、滅多に外を出歩きません。
暇さえあれば、アパートの部屋で筋トレをし、武器の手入れをします。
氷のような心の持ち主かと思いきや、鉢植えの観葉植物を大切にして、それはそれは丁寧に面倒を見ています。

イタリア系移民の彼は、学校へ行く機会がなかったのか読み書きができません。
なにやら恩があるらしいレストラン店主から仕事をもらい、仕事といっても殺人の依頼ですが、完璧にやってのけて(といっても人間なので時には結構な怪我もしますが、決して医者には行かず)、約束の謝礼を‥‥全額もらうわけでもなく、生活に必要な分だけ渡されて、読み書き計算のできないお前のために俺が貯金しといてやるから、と店主に言われて、本当に貯金してくれていると思い込んでしまうお人好しな一面ももっています。

ある日、アパートの隣室で白昼銃撃戦が始まります。麻薬密売組織の内輪揉めです。
この家の父親が組織のブツをちょろまかしていたことがバレて、組織のボスの逆鱗に触れ、4歳の男の子を含む家族も巻き添えになりました。

この家族の一員で、たまたま買い物に出て部屋にいなかった12歳の少女マチルダは、部屋の前まで戻ってきたときに異変を感じ、咄嗟にレオンのドアをノックします。
巻き込まれることを恐れるレオンですが、必死に目で訴えるマチルダを見ると、見殺しにはできませんでした。
彼女を部屋に入れて、かくまってやります。

家族を皆殺しにされたマチルダはレオンしか頼る者がなく、始めは関わりたくなかったレオンも無下に追い出すことはできず‥‥こうして2人の暮らしが始まります。

やがてマチルダはレオンの職業を知り、家族の、特に大切にしていた弟の仇を取るために力を貸してほしいと頼みます。断り続けるレオンでしたが、マチルダは麻薬密売組織のボスが実は麻薬取締局の捜査官であることを突き止めてきて‥‥。

出典:rakuten.co.jp

☆2つの孤独な魂の出逢い

殺しの腕は抜群なのに、生き方が不器用な中年男。
再婚した父の家に居場所がなく、入学した寄宿学校にも馴染めず、幼い弟にしか心を開けなかった少女。

2つの孤独な魂が、ニューヨークの片隅で出逢いました。

まるでそうなることが約束されていたかのように、互いが互いを補い合って、ひとつの方向へ突き進んでいきます。観る者のすべてが想像するであろう、あの結末の方向へ‥‥。

イタリア移民の学のない殺し屋。
ジャン・レノが寡黙に演じると、まるで修行僧のように見えてくるから不思議です。

麻薬取締局にいながら密売組織のボスをしている極悪非道な男を演じるのは、ゲイリー・オールドマン。
見事な悪党ぶりでレオンとマチルダの前に立ちはだかります。最近は『ウィンストン・チャーチル〜ヒトラーから世界を救った男』でアカデミー主演男優賞を受賞するなど活躍の場が広がっていますが、狂気を帯びた悪役を演じたら天下一品です。

そしてこの作品が成功した一番の要因は、マチルダにナタリー・ポートマンを起用したことではないでしょうか。
捨て猫のような目、大人びた立ち居振る舞い、そのアンバランスさの中にもろく砕け散りそうな孤独の魂を感じさせて、圧巻の存在感を放ちます。

エンディングテーマはスティング。
「シェイプ・オブ・マイ・ハート(Shape of My Heart)」はこの映画を見ていない人でも、一度は耳にしたことがあると思います。
特徴的なギターのアルペジオ、祈りの声にも似た抑制の効いたボーカル‥‥。
この曲を聴くと、その詩の内容とは無関係に、モリゾッチはいつも荒涼とした砂の大地を想います。どこまでも続く枯れきった砂漠の中に、砂に埋もれて、癒しの雨を待つ生命がある。生きたいと願う魂がある。
そう語りかけられているような気がしてきます。

この映画のストーリーと曲が、もはや切り離せいないほど、固く結びついてしまったのでしょう。
あのギターのイントロが流れると、まるで条件反射のように、レオンとマチルダを想い出すのです。

レオンは確かに、道を求める求道者のように、日々を静かに過ごしてきたのかもしれません。枯れきった砂漠の中で、砂に埋もれて、ただじっと癒しの雨を待つみたいに。
彼の仕事は人を殺すこと。自分の中に殺す理由のない人を、依頼を受けて殺すこと。

マチルダには殺す理由がある。殺す方法を持たないマチルダには、殺す理由だけがある。
つまらない学校、家族からの虐待。そして家族の死、何より大切だった弟の死‥‥。
彼女もまた、荒涼とした砂の大地に埋もれようとしていました。ただ、生きたいという願いだけを抱き締めたまま。

マチルダがレオンに、大事にしている鉢植えの観葉植物のことを尋ねるシーンがあります。
それ大事なの?
そう訊く彼女にレオンは返します。
大事な友達だ。無口なところがいい。それに、俺と同じで根っこを張ってない。
すると彼女はつぶやきます。
私もその鉢植えと同じね。

出典:ポスターより

☆自分にとって「正しい道」とは?

物語の終盤、今までレストラン店主を通じてレオンに殺しを依頼してきていたのは、麻薬密売組織のボス、つまりマチルダが仇と狙うあの男だったことがわかります。
そしてその男は、自分の正体に気づいたレオンたちを抹殺するため、ニューヨーク市警の特殊部隊を総動員して2人の住むアパートを取り囲みます。

圧倒的な武器と兵力で攻め込まれるレオンとマチルダ。
レオンはこのとき初めて、自分の中に殺す理由があることを自覚しました。長い間探し求めていた、無意識のうちに探し求めていた「道」を、彼は見つけたのです。

どんなことがあってもマチルダを守る。
彼女の命を生かす。
そして、彼女に代わってあの男を殺す。
それが自分の進むべき「道」。
自分にとって「正しい道」。

凄まじい戦闘シーンが続きます。
ものすごい数の銃弾が撃ち込まれます。
砕け散る家具。燃え上がる炎。
爆音と白煙に包まれる2人。そして肩撃ち式のロケット弾‥‥。
目を覆いたくなる惨状が繰り広げられますが、この戦闘の中の傷だらけのレオンこそ、リュック・ベッソン監督が一番描きたかったレオンなのかもしれないと気づきます。

ラストシーンは、ニューヨーク郊外の寄宿学校。

マチルダはここへ戻ってきました。
大きな木に囲まれた広い芝生の庭があります。その中ほどに歩み出た彼女は、レオンが大事にしていたあの鉢植えを、地面に植えてやります。

マチルダの手によって柔らかな大地に初めて根を下ろした、元鉢植えの観葉植物‥‥。
それはレオンの魂そのものであると、観ている誰もが思います。

レオンの魂は、ここに共にある。
本当は根っこを張りたい。
多くの人と繋がり生きていく道を選びたい。
人を騙したり、嘘をついたりせず、欲に目がくらむこともなく、ただ正しく生きたい‥‥。
そう願っていた魂。
ここに根を張り、マチルダを見守り続ける。

「シェイプ・オブ・マイ・ハート(Shape of My Heart)」のイントロが、観る者の胸にあるそうした想いを、確信へと変えていきます。

2022年3月にこの作品を観れば、いまこの瞬間も圧倒的な戦力を誇る隣国に理不尽に侵略され続けている彼の国の市民たちを想わずにはいられません(この記事は2022年3月14日に書いています)。
20年に及ぶ独裁政治で手にした莫大な富と権力。それに飽き足らず、他国のせいにしたり嘘で塗り固めた理屈をこねくり回して、侵略戦争を仕掛ける悪の帝国‥‥。その極悪非道ぶりは映画の比ではありません。ひとりの独裁者の欲が、罪のない大勢の市民の生命を奪っています。

あってはならないことです。
憤りを覚える方、正しく生きたいと願うすべての方に、この映画をお勧めします。

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モリゾッチ

モリゾッチ

10代からの映画熱が高じて、映像コンテンツ業界で20年ほど仕事していました。妻モリコッチ、息子モリオッチとの3人暮らしをこよなく愛する平凡な家庭人でもあります。そんな管理人が、人生を豊かにしてくれる映画の魅力、作品や見どころについて語ります。

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