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『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』レビュー☆愛する人のためにできること

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アクションの森

トム・ホランド主演による人気シリーズの3作目となります。
今回は歴代スパイダーマンの揃い踏みということでも話題になりました。またまた壮大なスケールのお話になっています。


  • 『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』
  • 脚本
    クリス・マッケナ/エリック・ソマーズ
  • 監督
    ジョン・ワッツ
  • 主な出演
    トム・ホランド/ゼンデイア/ジェイコブ・バタロン/マリサ・トメイ/ベネディクト・カンバーバッチ/トビー・マグワイア/アンドリュー・ガーフィールド
  • 2021年/アメリカ/148分

※以下の記事は作品の魅力を紹介するため最小限のネタバレを含みます。あらかじめご了承ください。

☆あらすじ

前作のエンディングで、倒した敵(ミステリオ)の策略によって、スパイダーマンの正体と名指しされてしまったピーター・パーカー(トム・ホランド)。ミステリオ殺害の容疑で当局の取り調べを受けるが、ドローンによる事故死だと真実を主張し、起訴を免れる。

だがその騒動の煽りで受験はことごとく失敗。彼だけでなく、恋人のMJ(ゼンデイア)と親友のネッド(ジェイコブ・バタロン)も、彼に関わったとの理由ですべて不合格となった。

困り果てたピーターは、かつてともに戦ったドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)に相談し、世界中のすべての人の記憶からピーターの記憶を消し去る魔術を実行してもらうことに。だが、呪文の途中でMJたちの記憶からは消さないでほしいと注文をつけたため、魔術は中途半端に実行され、事態は最悪の方向へ。

人々の記憶は何ひとつ変わらなかったが、その代わり、スパイダーマンの正体がピーターだと知っている者たちを、ほかの並行宇宙から呼び寄せることになった。それはすなわち、ドクター・オクトパス、グリーン・ゴブリン、エレクトロなど、かつてのスパイダーマン映画のヴィラン(悪役)たちなのだった。

彼らと戦い、捕獲して元の世界へ戻そうとする中で、彼ら全員がそれぞれの世界のスパイダーマンに殺される運命にあると知ったピーターは、彼らを治療して善人に戻し、スパイダーマンと戦うことのないようにしようと考える。
だが、捕獲した彼らを一箇所に集めて治療しようとした際に制御が効かなくなり、彼ら全員と同時に戦うハメに。

結局ピーター自身は大怪我を負い、育ての親である叔母のメイ(マリサ・トメイ)は巻き添えになって命を落とした。
それだけではない。その大惨事の現場をテレビ局に報じられ、この災いを招いたのはスパイダーマンであると断罪された。

世界のすべてを敵に回してしまった。
傷を負ったピーターは、絶望の中でそう実感した。
立ち上がることができなかった。
彼の帰りを待っているはずのMJとネッドにも、連絡することができなかった。

その頃、途方に暮れるMJとネッドの前に、2人の人物が現れた。それは、やはり不完全な呪文によってこの世界へ呼び寄せられた、別の世界のピーター・パーカー(トビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールド)なのだった‥‥。

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☆スパイダーマン映画の歴史

記録によれば、スパイダーマンが初めて人々の目に触れたのは1962年8月発売のコミック誌。シリーズ化された1963年から今日に至るまで、実にいくつもの物語が刊行されてきました。

アメリカン・コミックス(アメコミ)といえば、スーパーマンやバットマンを生み出したDCコミックス(1934年設立)も有名ですが、こちらは1939年設立のライバル社マーベル・コミック(マーベル・エンターテインメント)による作品です。マーベルのヒーローといえば、スパイダーマンのほかにも、キャプテン・アメリカやアイアンマンが有名ですね。

そして映像化ということで言いますと、20世紀中にもテレビシリーズから派生した劇場版映画が何本か公開されていますが、私たちの記憶に残っているものとしては、やはり今世紀になってからの2つの映画シリーズが挙げられると思います。

それはサム・ライミ監督の「スパイダーマン」3部作と、マーク・ウェブ監督の「アメイジング・スパイダーマン」シリーズの2本の映画です。
これに、ジョン・ワッツ監督の本シリーズを加えて年譜にしてみると、こんな感じになります。

サム・ライミ監督&トビー・マグワイア主演シリーズ
●『スパイダーマン』(2002年)〈グリーン・ゴブリン〉
●『スパイダーマン2』(2004年)〈ドクター・オクトパス〉
●『スパイダーマン3』(2007年)〈サンドマン〉

マーク・ウェブ監督&アンドリュー・ガーフィールド主演シリーズ
●『アメイジング・スパイダーマン』(2012年)〈リザード〉
●『アメイジング・スパイダーマン2』(2014年)〈エレクトロ〉
                      ※〈 〉内はいずれも登場したヴィラン

ジョン・ワッツ監督&トム・ホランド主演シリーズ
●『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年)※ヴィランはバルチャー
●『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年)※ヴィランはミステリオ
●『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021年)※ヴィランは上記〈 〉付きのすべて

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☆「若葉マーク」のヒーロー

この中でも特にトム・ホランド主演シリーズは、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)に組み入れられていますので、マーベル・スタジオ製作によるそのほかのスーパーヒーロー映画にも、スパイダーマンは登場しています。

トム・ホランドのスパイダーマンが登場するMCU作品はこちらです。
●『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年)
●『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)
●『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)

さて、スパイダーマンのヒーローとしての魅力といえば、ウェブシューター(手首に装着された蜘蛛の糸を射出する装置)を用いたキレのいいアクションもさることながら、なんと言っても、素顔はただの平凡な高校生、というその設定にあるという気がします。

MCU初登場となった『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年)では、トニー・スターク(アイアンマン)にスカウトされてメンバー入りする前は、地元ニューヨークで自警活動をしていただけの高校生。並み居るヒーローたちと比べるといかにも線が細く、メジャーリーガーの中に紛れ込んだ高校球児、というような初々しさを感じた人も多かったのではないでしょうか。

高校生ですから試験があり、夏休みがあり、当然恋模様があり‥‥。ティーン特有の悩みを抱えながら、ヒーロー活動にも深く足を踏み入れていきますが、失敗することも多く、泣き出したり、絶望したり‥‥。
いわば初心者マーク、若葉マークのヒーロー(あ、人間としても若葉マークですね)というところが、MCUのほかのヒーローたちにはない、最大の魅力と言えるでしょう。

そしてもちろん、スーパーヒーロー映画の最大のファン層から見れば、自分たちと同世代のヒーローというわけですから、人気が出ない方が不思議、と言った方がいいかもしれません。

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☆MCUのマルチバース

ヒーローとしての「若葉マーク」ぶりは本作でも健在です。
それは、ほかの世界(=宇宙)からやってきたヴィラン(悪役)たちへの対処方針に、顕著に表れています。まず、ヒーローとしても人間としても成熟し、世慣れたドクター・ストレンジは、捕獲してすぐに元の世界へ戻すことを提案しますが、我らがピーターは(メイ叔母さんのアドバイスもあって)これをキッパリと拒否。彼らを治療してから戻そうとします。

何をそんな青臭いことを、と思いますが、この「青臭さ」こそがスパイダーマンの本質であり、最大の魅力でもあるんですね。

ここで少し横道にそれますが‥‥。
私たちがいま「ほかの世界」とか「ほかの宇宙」とか気軽に表現しているのは、MCU作品などですっかりお馴染みになった「マルチバース(多元宇宙)」という概念のことなのですが、これはそもそも「マルチ(複数の)」と「ユニバース(宇宙)」を合わせた造語です(ちなみに、「ユニバース」の「ユニ」は「ひとつの」という意味です)。

「世界」という言葉は、「わたしたちを取り巻いている世界」という言い方があるように、「宇宙」よりも狭い範囲を指して使われることも多いと思います。そうした影響で、ひとつの大きな「宇宙」の中にいくつもの「世界」がある、というイメージを抱く人もいるかもしれません。
ですが、こと「マルチバース」に関しては、「世界」と言おうが「宇宙」と表現しようが、すべてを含んだ「ひとつの大きな宇宙のこと」として捉えることが重要です。

現代宇宙論の主要な理論の中に、宇宙が急激に膨張していく過程で親宇宙から子宇宙、孫宇宙が泡のように無数に生まれ、そのすべての宇宙(それぞれを「並行宇宙」と呼びます)が別々に進化していく、という「多元宇宙論」がありますが、大変興味深いことに、ミクロの世界を扱う量子力学にも、「多世界解釈」という、並行宇宙や多元宇宙の存在を示唆する仮説があります。
(この辺りのことは以下の記事により詳しく載せていますので、興味のある方はご参照ください→『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』レビュー☆自分より相手のことを思えるか?

さて、本題に戻り‥‥たいところではありますが、その前に、「マルチバース」をおさらいしたついでにもう1点だけ。
ものすごく冷静に考えてみれば、「そもそもドクター・ストレンジがいなければ、こんなことにはならなかったんじゃないの?」という、多分誰の心にも湧く疑問は、的を射ているというか、けだしごもっともなところがあります。

それはありますが‥‥、まあ、逆に考えてみると、それがあったから歴代スパイダーマンの揃い踏みを見ることができた、とも言えるわけで‥‥。

つまり、こういうことですね。
世の中に「シリーズもの」と言われる作品は数多いですが、時にキャスティングとか、権利関係とかの大人の事情で、それまでのシリーズを終了して仕切り直し、別の顔ぶれで新シリーズを始める、ということがままあります。映画の世界ではこれを「リブート(再起動)」と呼びますが、その場合、新シリーズは旧シリーズを無視するというか、前のシリーズなどなかったかのようにお話を進めるのが普通です。

MCUではといいますか、本作ではといいますか、「マルチバース」という概念を使うことで、3つのシリーズを融合させ、共存させることに成功しています。
これが非常に新しいというか、魅力的な試みで、これまでのスパイダーマン・ファンもMCUファンも、ともに拍手喝采した点ではないでしょうか。

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☆ヒーロー失格の危機

さて、青臭い理想を追求した結果、作戦は失敗して大怪我を負い、育ての親のメイを失うという大きな挫折を味わったピーターですが、MJとネッドが彼を見つけ出したときには、すっかりやさぐれた感じになっていました。
「ほかの宇宙」からきた2人のピーターを見ても、ヴィランたちを連れて元の世界に戻ってくれ、もう自分は関係ない、と言い出す始末。

これではまるで、アフガンからの撤退を決め、メキシコ国境に壁を建てようとしたトランプ政権下のアメリカみたいです。
自分さえよければいいとか、自分のことしか考えないというのは、もはやヒーローではありません。

この、いわば「ヒーロー失格」の危機からピーターを救ったのは、ほかならない2人の先輩ピーターでした。2人には、いま目の前で傷ついているピーターの気持ちが、痛いほどわかったのです。
トビー・マグワイアのピーターは伯父のベンを亡くした話を、アンドリュー・ガーフィールドのピーターは恋人グウェンを失ったときの話を聞かせます。

ベンは亡くなる間際に、ピーターにこう言いました。「大いなる力には、大いなる責任が伴う(With great power comes great responsibility)」
それは、本作でメイが死ぬ前に言い残した言葉と同じだったのです。

ピーターは衝撃を受けます。そして、メイが生前望んでいたことを思い出します。
自分たちの世界のことだけを考えるな。向こうの世界のためにも、いまこの世界でできることをするのがヒーロー。
メイは、ピーターにそう言っていたのです。

傷だらけのピーターでしたが、再び立ち上がる力が湧いてきました。
2人の先輩ピーターの協力を得て、もう一度ヴィランたちを治療するために動き始めます。今度はMJとネッドも作戦に加わります。

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☆歴代スパイダーマンの揃い踏み

最終決戦の場は改修工事中の自由の女神像の上。3人のスパイダーマンと5人のヴィランによる怒涛のアクションシーンが続きます。 ここからまだ一波乱も二波乱もあり、スパイダーマンらしいスリリングなアクションを存分に堪能できます。

このクライマックス、舞台が自由の女神像ということもあって、なんだか「自由」を守るためのアメリカの戦いを見ているような気がしてきます。
ヴィランたちはもちろん、治療など望みません。5人は口々に、道徳心がお前の弱点だ、とか、余計なお節介が命取りになる、などとスパイダーマンに悪態をつきながら攻撃してくるのですが、その姿は、アメリカの価値観を押し付けられるのはゴメンだと駄々をこね、俺たちの好きにさせろと主張する中国、ロシア、北朝鮮、イラン、シリア(あ、ちょうど5か国ですね)に見えてくるから不思議です。

こうした国々、好きにさせておいて何も問題が起きないのなら、もちろん放っておいていいのです。でも、ほぼ100%の確率でそういうことはありません。
なぜなら、国際社会の平和や秩序よりも自分たちの利益を優先するために、「好きにさせろ」と言っているのですから。ある国の「好き」が許されたのを見て、すべての国々が「好き」に振る舞い始めたらいったいどうなるか‥‥。

ロシアによるウクライナ侵攻が現実になり、中国による台湾侵攻に怯える私たちは、そのことを誰よりもよく理解できます(この記事は2023年2月17日に書いています)。
どこからかヒーローが現れて、私たちのヴィランを治療してくれる‥‥。
それは夢物語に過ぎないのでしょうか?

映画の中では、やがて3人のスパイダーマンの連携によって、ヴィランたちはひとりずつ専用の治療薬を注入され、本来の姿である穏やかな人格に戻っていきます。彼らはそれぞれに、事故や実験中のミスなどで特殊能力を得て、それと同時に心が狂気に支配されてしまったという事情があったのです。
なんだかその点も、これらの国々がたまたま独裁政権に牛耳られて暴走しているだけで、実はそれぞれの国民は穏やかな暮らしを望んでいる、という構図とダブります。

そんなわけで、この怒涛のアクションシーンを観ながらモリゾッチが思ったのは、本作に感銘を受けた若者の中から何十年後かの世界のリーダーが生まれたら素晴らしいな、ということでした。
もちろん、ヒーローとリーダーは厳密に言えば役割が違います。違いますが、スパイダーマンの心を持ったリーダー、そんな人がこっちの国にもあっちの国にも出てきたら‥‥。

もしかしたら、本作の製作陣はそれを狙ってこの物語を作ったのでしょうか?

もしそうなら、これほど「青臭い」野望はないと思いますが、いかがでしょうか。
映画で世界を変える。
映画で世界をよくする。

それは、「青臭い」けど素敵な野望です。
そして映画には、確かにそういう力があります。
そのことを、なんだか思い出させてもらったような気がしました。

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☆愛する人のためにできること

さて、なんとかすべての治療を終えた3人のスパイダーマンでしたが、そのあとに最後の波乱が待っていました。
再び登場したドクター・ストレンジがみんなを元の世界へ戻そうとしますが、「マルチバース」はもはや制御不能。空にポッカリと開いた次元の裂け目から、こちらの世界へ押し寄せてくるモンスターたちの姿が見えています。

多元宇宙論や多世界解釈によれば、平行宇宙は無数にあるはずです。無数の平行宇宙から無数のヴィランがやって来る‥‥。

ピーターに迷いはありませんでした。困惑するドクター・ストレンジに訊ねます。
すべての人の記憶から自分のことを消し去れば、世界は元に戻るのか、と。

そうです。
この物語の一番最初に、この魔術を行うはずでした。それが完全に行われていれば、こんなことは起きていなかったのです。

ドクター・ストレンジはうなずき、ピーターはすぐに実行してほしいと懇願します。
ためらうドクター・ストレンジですが、この事態を切り抜けるには他に方法がないことも事実でした。

ピーターはMJとネッドのもとへ取って返し、事情を説明します。
必ず僕が君たちを見つけるから。僕がすべてを話して思い出させるから。
抵抗する2人を、ピーターはそう説得しました。
3人が再会を誓い合うのと、ドクター・ストレンジが魔術を実行するのが、ほとんど同時でした。

時は流れ、世界中からピーター・パーカーの記憶が消え去って数日が経った頃、MJがバイトするカフェにピーターが顔を見せます。
MJにコーヒーを注文するピーター。そこへネッドが客として入ってきます。ピーターには目もくれません。MJもまったく初対面かのようにピーターに接します。

実は、僕は‥‥。
そう切り出すチャンスは何度もありました。
しかしピーターは、そうしませんでした。
2人に何も告げず、テイクアウトのコーヒーを持って、街へ出ていきました。

それでよかったのかどうかは、多分誰にもわかりません。それが正しいことなのかと問えば、頭の中にさまざまな考えが浮かびます。
MJとネッドは話してほしかったでしょうけどね。

でも、我らがピーターは、話さない道を選びました。スパイダーマンの恋人や親友でいない方が、彼らは幸せだ。そう考えたのでしょう。
その考えは尊重しましょう。それは、彼のヒーローとしての成長の証だと思うからです。

彼はもう、この物語が始まったときの彼とは違います。
愛する人のためにできること。
それは何かを、考えられる人になりました。

本物のヒーロー、と言ったらカッコよすぎますか?

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モリゾッチ

モリゾッチ

10代からの映画熱が高じて、映像コンテンツ業界で20年ほど仕事していました。妻モリコッチ、息子モリオッチとの3人暮らしをこよなく愛する平凡な家庭人でもあります。そんな管理人が、人生を豊かにしてくれる映画の魅力、作品や見どころについて語ります。

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