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『ゴーストバスターズ/アフターライフ』レビュー☆歓迎されるオバケになりたい

出典:本作DVDパッケージより
コメディーの森

80年代ブームとか、レトロブームとか言われるようになって久しい気がしますが、この作品もその流れの中に位置付けられるかもしれません。なにしろ、80年代に大ヒットした映画の続編ですから。


  • 『ゴーストバスターズ/アフターライフ』
  • 脚本
    ギル・キーナン/ジェイソン・ライトマン
  • 監督
    ジェイソン・ライトマン
  • 主な出演
    キャリー・クーン/フィン・ウルフハード/マッケナ・グレイス/ポール・ラッド/ビル・マーレイ/ダン・エイクロイド/アーニー・ハドソン/アニー・ポッツ/シガニー・ウィーバー
  • 2021年/アメリカ/124分

※以下の記事は作品の魅力を紹介するため最小限のネタバレを含みます。あらかじめご了承ください。

☆あらすじ

12歳のフィービー(マッケナ・グレイス)は母キャリー(キャリー・クーン)や兄トレヴァー(フィン・ウルフハード)と3人暮らし。オクラホマ州の田舎でひとり暮らしをしていた祖父の死に伴い、空き家となった古い屋敷に3人で引っ越して来る。

そこは原因不明の地震が30年間おさまらないという曰く付きの土地で、地震学者のグルーバーソン(ポール・ラッド)が研究の傍らフィービーのサマースクールの教師をしていた。
ある日フィービーは、自宅の地下にある研究室のようなスペースでさまざまなハイテク装備を発見する。そしてそのことがきっかけで、祖父のイゴン・スペングラー博士がかつてニューヨークを救ったゴーストバスターズの一員だったことを知る。

グルーバーソン先生やサマースクールの同級生、トレヴァーや彼のバイト仲間の協力を得て、フィービーは、祖父が30年前にニューヨークを襲ったゴーストたちをこの街に封印していたことを突き止める。この街の地震は、それが原因だったのだ。

それにしてもなぜこの街だったのか?
その答えが見えかけたとき、ゴーストたちの封印が解かれ、破壊の神ゴーザが街に解き放たれた。
フィービー、トレヴァーと仲間たちは、祖父が遺したプロトンパック(ゴーストバスターズの装備)を使って、世界を救うために立ち上がるのだったが‥‥。

出典:DVDパッケージより

☆80年代に最も成功したコメディ映画の続編

1984年に公開された『ゴーストバスターズ』は、ピーター・ヴェンクマン博士(ビル・マーレイ)、レイモンド・スタンツ博士(ダン・エイクロイド)、イゴン・スペングラー博士(ハロルド・ライミス)という3人の超常現象研究者が、霊界の破壊の神ゴーザの復活を阻止して、ニューヨークに平和をとり戻す物語でした。

ヒロインにシガニー・ウィーバーを迎え、リック・モラニス、アニー・ポッツら芸達者が脇を固めたこの映画は、ホラーとコメディーとアクションを融合させた作品として高い評価を獲得し、レイ・パーカーJr.による主題歌のヒットも相まって、ちょっとした社会現象と言われるほどの人気を博しました。
80年代に最も成功したコメディ映画という評価が定着しています。

その続編として1989年に公開された『ゴーストバスターズ2』は、同じメンバーが、自身の肖像画からよみがえろうとするヴィーゴ大公(16世紀に魔術師にして狂人と恐れられた人物)の亡霊と戦うストーリーです。
この2作はともにダン・エイクロイドとハロルド・ライミス(3人の主役うちの2人ですね)の共同脚本で、プロデュースと監督をアイヴァン・ライトマンが務めました。

その後シリーズ第3作の企画段階でハロルド・ライミスが亡くなり(2014年)、それに伴ってアイヴァン・ライトマンが監督を降板。のちに監督を引き受けたポール・フェイグは、オリジナル作品とはストーリー上のつながりがまったくないリブート版として、『ゴーストバスターズ』(2016年)を発表しました。
このリブート版では、うだつの上がらない女性研究者たちがゴーストバスターズとなって活躍するまでを描いています。

そしてそのあとに、第1作と第2作の監督を務めたアイヴァン・ライトマンの息子であるジェイソン・ライトマンがメガホンを取り、父が監督した2本の映画の続編として製作されたのが本作、というわけです。
ですから本作は、2016年のリブート版とはなんのつながりもありません。

ハロルド・ライミスの不在のため、イゴン・スペングラー博士の死からストーリーが始まり、その娘や孫たち家族の物語を描いていく中で、フィービーらティーンエイジャーのゴーストバスターズが誕生します。
終盤にはオリジナルメンバーも全員登場し、ゴーストバスターズの世代交代、豪華でド派手なバトンタッチの儀式を見せられているような気分になります。

© 2021 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.

☆孫たちの世代へバトンタッチ

新たなゴーストバスターズの中心選手となるのは、孫娘フィービー。
演じているマッケナ・グレイスは2006年生まれ。7歳の頃から子役として活躍し、『gifted/ギフテッド』(2017年)ではクリス・エヴァンスとともに主演を務め、同年の『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』ではトーニャ・ハーディングの少女時代を演じて話題になりました。

本作では相変わらずの達者な演技で、祖父譲りの科学者気質が仇となって普通の学校生活には馴染めない、クールで探究心旺盛な女の子を好演しています。
個性的なクセ毛のヘアースタイルが印象的で、そこに祖父と同じ形のメガネがいいアクセントとなって、変わり者の研究者に育ちそうな雰囲気をプンプン漂わせます。いい役者ですね。
本作のエンドロールでは、「Haunted House」というデビュー曲で歌手としての歌声も聴かせてくれています。

その兄トレヴァーを演じるフィン・ウルフハードは、2002年生まれ。2016年と2017年に配信された『ストレンジャー・シングス 未知の世界』でブレイク。『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017年)で劇場長編映画デビューを果たした注目の若手です。

15歳という設定ですが、正直言って15歳には見えません。
が、本作の場合はそれも愛嬌といいますか、どうでもいいといいますか(笑)‥‥。祖父の納屋に隠されていたキャディラック ECTO-1(ゴーストバスターズが出動するときにいつも乗っていたお馴染みの車です)を見つけ出して、ブッ飛ばしてみたり‥‥、ノリのいい兄貴として、頭脳派の妹への好アシストを見せます。

この兄妹のほかに、トレヴァーが密かに思いを寄せるバイト仲間の黒人の女の子ラッキー(実は地元の警察署長の娘:演じているのはセレステ・オコナー)、フィービーの同級生で機械に詳しい通称ポッドキャスト(演じているのはローガン・キム)の2人も加わって、ゴースト退治に立ち上がります。

© 2021 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.

☆監督も息子へバトンタッチ

キャディラック ECTO-1という車のほかに、お馴染みになった揃いのツナギのユニフォーム、背中に背負って使うプロトンパック、足で踏んで作動させるゴースト捕獲器「ゴーストトラップ」など、1984年版のファンが泣いて喜ぶ小道具がたくさん登場します。

フィービーの学校のグルーバーソン先生が、自分の少年時代に大活躍したゴーストバスターズのことを覚えていて、今でもとてもリスペクトしているという設定で、彼女が家から持ってきた四角い箱を見て「よくできたゴーストトラップの模型だろう」と興奮気味に言うシーンがあります。

この設定が実に効いていて、グルーバーソン先生はフィービーたち孫の世代と祖父たちの世代を結びつける重要な役割を果たします。
と同時にこの設定は、若いジェイソン・ライトマン監督の中にある、自身の父が作り出した大ヒット作へのリスペクトを、またその作品を愛したファンたちへのリスペクトをも想起させます。というか、そう感じた我々が勝手に温かい気持ちになる、というのでしょうか‥‥、とにかく、そんな効果もあったりします。

そのライトマン親子ですが、お父さんのアイヴァン・ライトマンはプロデューサーという立場で本作に関わっていて、ほとんどの現場に立ち会っていたようです。
息子であるジェイソン・ライトマン監督は、それについてこんなふうに語っています。

モニター横に父が座って見ていることがよくあったんだけど、とても感激すると同時に、とてもストレスでもあったよ(笑)

出典:ジェイソン・ライトマンが明かす、父の代表作「ゴーストバスターズ」を引き継ぐまでの心の旅路

これは息子としての正直な感想でしょう。その気持ち、とてもよくわかります。

2022年2月、ちょうど日本で本作が公開中のタイミングでしたが、アイヴァン・ライトマン氏の訃報が伝わりました。ですから、本作は、プロデューサーを務めた彼にとっての遺作となったわけです。
遅ればせながら、謹んで哀悼の意を表したいと思います。

しかし、息子がただ父と同じ職業を選んだだけでなく、父の代表作の続編を監督するというのは、なんだか羨ましくなるような親子関係という気がします。
父の立場からすれば、自分の息子にバトンを直接手渡すことができたのですから、これ以上何も望むことはなかったかもしれませんね。

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☆描かれているのはギクシャクした親子関係

ところで、本作の中で描かれる親子関係は、これよりちょっと複雑です。
フィービーの母キャリーは、父であるイゴン・スペングラー博士が得体の知れない研究に没頭して家族を顧みなかったことを許していません。そんな父への反抗心も手伝ってか、大の科学嫌いで、科学の話を聞くと吐き気がすると普段から豪語しています。

その娘フィービーは、母とは正反対で大の科学好き。
そしてこの母娘関係、どこかしっくりいっていないというか、なんとなくギクシャクしているのです。お互いに、自分には理解できない何かを抱えて生きている人、と思ってしまっているような、そんなもどかしい空気感に包まれています(まあ、しかし、こちらの方が世の中の一般的な親子関係に近いのかも、という気がします。親子関係って、だいたいギクシャクしますよね)。

そんなある日、キャリーは屋敷の地下室(そこはイゴン・スペングラー博士の研究室だったスペースです)で、自分の小さい頃からの写真が一面に飾られた壁を発見します。家族の写真も一緒に飾られ、自分の成長の記録がそこにありました。
父は自分を嫌っていたわけではなかった。キャリーはそのことを理解します(確かに、たいていの親子のギクシャクは、こんなふうにどちらかの誤解だったり、お互いのコミュニケーションの不足からくるものかもしれません)。

キャリーはこの直後、ゴーストに襲われてしまうのですが‥‥。

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☆レジェンドたちの勢揃い、歓迎されるオバケになりたい

ゴーストといえば、1984年版で世間をアッと言わせたマシュマロマン。
映画本編は観たことないけど、このマシュマロマンだけは知っている、という方もいらっしゃるかもしれません。それくらい、話題になりました。本作では小さなマシュマロマン軍団となって、愛くるしい姿を披露してくれています。

というわけで本作は、もちろんいきなり観ても楽しめる作りになっていますが、もしも時間があるのであれば、『ゴーストバスターズ』(1984年)、『ゴーストバスターズ2』(1989年)、そして本作と、やはり製作された順に観る方が楽しめるでしょうし、クライマックスでの感慨もより深く大きくなることでしょう。

さて、そのクライマックスです。

家族から離れ田舎街にひとり移り住んで、かつての仲間たちにも一切告げず、怪しげな研究に没頭した博士。それは、この地にゴーストを封印するためであったことがわかりました。
娘のキャリーにとってみれば、ゴーストに父を奪われたようなものでした。
しかしそのキャリーはゴーストに襲われ、肉体を乗っ取られてしまいます。

祖父から受け継いだ科学好きの遺伝子で、祖父の残した装備を使いこなすフィービー。
祖父の思いを受け継いで、世界を救うため、そして文字通りゴーストに奪われた母を救うため、仲間たちと戦いに挑みます。

そしてそこに駆けつける助っ人が、レジェンドたち。オリジナルのゴーストバスターズのメンバーです。
祖父の研究室に残されていた以前の連絡先に、フィービーが電話を入れていたのでした。

それぞれにプロトンパックを背負い、かつてのようにレーザービームを照射するのは、フィービーの祖父といっしょにゴーストバスターズを立ち上げた2人の博士と、人手が足りなくなって途中から雇われた黒人のウィンストン(演じているのはアーニー・ハドソン)‥‥つまり、ここにフィービーの祖父が加わった4人がオリジナルのゴーストバスターズなのです。

そしていまはその4人目の役をフィービーが果たしている、と思って観ていると‥‥いつの間にか、フィービーの手にもうひとりの手が添えられています。
イゴン・スペングラー博士、その人でした。もちろん、CGによる再現です。

かくして、レジェンドは勢揃いして、ゴーストを封印するため戦います。この戦いは、同時に、若い世代へバトンを繋ぐための戦いなのです。

戦っている相手はもちろんゴーストですが、いまや味方の中にもゴーストがいます。時の経過を感じずにはいられません。感慨深いクライマックスです。

この物語を通じてゴーストバスターズのバトンは見事に次世代へと渡されました(本作の続編が2023年12月に全米公開となることがすでに決まっています)。
それと同時にこの物語は、祖父であるイゴン・スペングラー博士の思いを娘のキャリーへ、そしてさらに孫のフィービーやトレヴァーへと繋ぐ家族の物語であり、そしてその裏側ではもうひとつ、1984年版の監督であるアイヴァン・ライトマンから息子のジェイソン・ライトマン監督へバトンを繋ぐという、美しくリアルなドラマも進行していました。

イゴンとアイヴァン、バトンを渡した側の2人は、いまではどちらもゴーストです。

最後に救出されたキャリーは、父イゴンのゴーストを見て懐かしそうに微笑みます。変わり者の父を許せなかった娘の顔は、もうそこにはありません。
かつての仲間も孫たちも、イゴンのゴーストを見るみんなの目が、とても優しいのです。

私たちは誰も皆、イゴンのようにゴーストになる運命です。
どうせなるなら、ゴーストトラップに捕獲される幽霊やオバケにはなりたくない。
歓迎されるオバケになりたい。

そんなことを考えさせられた映画でした。

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モリゾッチ

10代からの映画熱が高じて、映像コンテンツ業界で20年ほど仕事していました。妻モリコッチ、息子モリオッチとの3人暮らしをこよなく愛する平凡な家庭人でもあります。そんな管理人が、人生を豊かにしてくれる映画の魅力、作品や見どころについて語ります。

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