当サイトは広告・PRを表示します

『ブリジット・ジョーンズの日記』レビュー☆おひとり様は負け組ではない

出典:本作DVDパッケージより
ラブロマンスの森

ドジでちょいポチャな30代独身女性が主人公のお話です。
主演を務めたレネー・ゼルウィガーは、体重を普段より13㎏も(一説には20ポンド=約9㎏とも)増やして撮影に臨んだと伝わります。


  • 『ブリジット・ジョーンズの日記』
  • 脚本
    リチャード・カーティス/アンドリュー・デービス/ヘレン・フィールディング
  • 監督
    シャロン・マグワイア
  • 主な出演
    レネー・ゼルウィガー/コリン・ファース/ヒュー・グラント
  • 2001年/イギリス・アメリカ・フランス/97分

※以下の記事は作品の魅力を紹介するため最小限のネタバレを含みます。あらかじめご了承ください。

☆あらすじ

出版社に勤める32歳独身のブリジット・ジョーンズ(レネー・ゼルウィガー)は、新年の実家のパーティーで母からバツイチの弁護士マーク(コリン・ファース)を紹介される。まったく覚えていないが、彼とは小さい頃いっしょに遊んだことがあったらしい。沈黙が気まずいので、タバコをふかしながら二日酔いの自分を自虐的に語ってみたが、さりげなく会話を終了されてしまう。
またドジってしまった‥‥。後悔しても、遅かった。

ロンドンの自分の部屋に戻った彼女は、このままではワインボトルが人生の伴侶になってしまう、と一念発起。日記をつけ始める。
体重、タバコの本数、ワインの量‥‥。正直に真実を書くところから始めて、1日も早く酒やタバコに依存する生活から抜け出し、スマートになって、人生の伴侶を見つける!
そう決意を新たにするのだった。

そんなある日、自分が担当する本の出版パーティーが開かれた。
勇んで会場入りする彼女だったが、そこには仕事上の義理で弁護士のマークも参加していて、偶然の再会を果たす。
ところが、マークには同僚の女性弁護士が付き添っていて、紹介を受けたブリジットはその有能そうな佇まいに圧倒される。

その後司会を任された彼女は、またしてもドジって場の空気を凍らせてしまうが、落ち込む彼女を優しく慰めたのは、上司のダニエル(ヒュー・グラント)だった。
実は彼女、このセクシーで遊び人風の上司に対して、密かな憧れと警戒心を同時に抱いていたのだ。だがこの夜の流れでは、見えすいた慰めの言葉でも、憧れが勝つには充分だった。

食事に誘われ、その席でマークとの関係を訊かれた。幼なじみと答えて訝しがる彼女だったが、話をしていくうちに、ダニエルとマークは大学のクラスメートで、ダニエルはかつてマークにフィアンセを寝取られた、ということがわかった。
そして誘われるままにダニエルの家へ行き、交際を始めるブリジットだったが‥‥。


出典:DVDパッケージより

☆ひとりきりはもうイヤだ

冒頭の新年パーティーに続くシーンは、夜のブリジットの部屋。彼女はひとりパジャマ姿でソファに座り、タバコを吸い赤ワインを煽って、テレビから流れてくる「All By Myself」に合わせて泣きながら歌い始めます。

ドラムを叩く真似をし、足を大きく蹴り上げて、感情むき出しの熱唱‥‥。それに合わせて、タイトルがクレジットされるのですが、映画のスタートからここまで6分余り。
サビの歌詞は、こう繰り返します。

「ひとりきりにはなりたくない」
「ひとりきりはもうイヤだ」

本作は、このおよそ6分間で世界中の独身女性の心を鷲掴みにした、と言われています。

考えてみれば‥‥、パーティーのために母が用意してくれたドレスはピッチピチ(これはまあ、純粋に去年よりも太った自分が悪いとも言えますが)、親戚のハゲ親父に挨拶すればお尻を撫でながら「男はできたか?」と訊かれ、そばにいた年輩女性からは「急がないと時間切れになるわよ、チックタック、チックタック‥‥」とからかわれる。

そのあとバツイチ独身弁護士を紹介されたのはよかったが、そのイケメンぶりに気おくれし、つい言わなくていい自虐ネタで笑いを取ろうとしたものの、気づけば笑っているのは自分だけ。
挙句のはてに、「あ、何か食べよう」とか言って目をそらされる始末。

それもこれも、すべて自分が「おひとり様」のせいだ。「おひとり様」だから軽く見られるし、軽く見られるから余計自信がなくなる。
あー、ひとりきりにはなりたくない。
ひとりきりはもうイヤだ。

その気持ち、痛いほどわかります。

この映画の原作はヘレン・フィールディングのベストセラー小説『ブリジット・ジョーンズの日記』(1996年発行)ですが、この原作にはさらにベースとなった小説があって、それはジェイン・オースティンの『高慢と偏見』(1813年発行)という、18世紀から19世紀のイギリス中流社会を舞台に、特に女性の結婚事情にスポットを当てた恋愛小説です。

その辺りから察するに、イギリスなどの先進国で、おひとり様(とか、嫌な言葉ですがいわゆる「行き遅れ」とか)になって肩身の狭い思いをする女性たちの増加が始まったのは、だいたい18世紀後半くらいからなのでしょう。
それから200年余りの時を経て‥‥、本作が公開された21世紀には、この嫌な風潮はすっかり全世界に広まっていた‥‥、ということを、本作の世界的なヒットが示しているのだと思います。

(C)2000-2001 UNITED INTERNATIONAL PICTURES

☆ロマコメ達人の脚本

さて、その原作者も名を連ねている脚本陣のトップにクレジットされているのは、リチャード・カーティス。ロマンチック・コメディーの達人として、その名前を記憶している方も多いのではないでしょうか?

ニュージーランド生まれながらキャリアのスタートはイギリスで、テレビシリーズ『Mr.ビーン』などで頭角を表し、本作の少し前には『ノッティングヒルの恋人』(1999年、レビューこちら)がヒット。
本作のあとは続編の『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月』(2004年)を手掛け、脚本兼監督としても『ラブ・アクチュアリー』(2003年)や『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』(2013年、レビューはこちら)などのヒット作があります。

この作品歴を知ってから振り返れば、本作が多くの支持と共感を集めたことも驚きではないというか、むしろ必然と言ってもいいような気がしてきます。何せベスセラー小説とロマコメ達人の組み合わせですからね。

ドジでちょいポチャなブリジットは仕事も恋も一生懸命。下腹部を気にしてドレスの下にデカパンを履いたり、失恋すればワインとタバコ漬けで思い切りダメな人になってみたり‥‥。滑稽さと切なさと愛くるしさが同居した、それまであまりなかった「リアル」を感じさせるヒロイン。

それが本作の魅力であり、その魅力を引き立たせるよう計算され、充分に練られた脚本が、レネー・ゼルウィガーの体当たり演技を引き出した。
本作の成功の要因は、そういったところにあると言えそうです。

(C)2000-2001 UNITED INTERNATIONAL PICTURES

☆女性たちへの応援歌

音楽もまた、この作品を語る上で忘れてはならない要素です。
特に女性ファンの心をグッと引き寄せるための工夫が随所にあり、映画の場面と音楽が切り離せない形で記憶に残ります。

一例を挙げれば、タイトルバックに流れてブリジットが熱唱する「All By Myself」。これはもともとエリック・カルメンのヒット曲ですが、本作では女性ボーカルであるジェイミー・オニールのカバーバージョンを使用しています。

遊び人風上司のダニエルには、結局二股をかけられていたことが後でわかるのですが、愛想を尽かしたブリジットが退職を告げるシーンではアレサ・フランクリンの「Respect」。その後の転職活動のバックにはチャカ・カーンの「I’m Every Woman」と、女性の立場を主張するというか、女性たちへの応援歌的な楽曲がさり気なく使われています。

上司のダニエルと別れたあと、ブリジットはひょんなことから弁護士のマークと再会し、思いがけず好意を伝えられます。
しかしこの男はあのダニエルのフィアンセを寝取ったのだ。見かけと違って、ダニエル以上の遊び人なのかもしれない、バツイチだし。そのことが気になって、心から喜べないブリジットだったのですが‥‥。

これもひょんなことから、ダニエルが言っていたのは真実と真逆だったことがわかります。つまり、マークが寝取ったのではなく、ダニエルがマークの妻を寝取ったのです。
そうとわかれば、もはやブリジットを止めるものは何もありません。マークのもとへ、急いで自分の思いを伝えに行きます。

このとき流れる曲が「Ain’t No Mountain High Enough」。オリジナルのマーヴィン・ゲイではなく、ダイアナ・ロスのバージョンを使い、いますぐ飛んでいきたいブリジットの気持ちの高まりをうまく表現しています。

(C)2000-2001 UNITED INTERNATIONAL PICTURES

☆超イケメン弁護士からの告白

ところで、好意を伝える方法も人によってさまざまですが、イケメン弁護士マークの告白シーンには多くの女性が好感を持つのではないでしょうか?
緊張で言葉を詰まらせ、とても言いにくそうに「ありのままの君が好きなんだ」なんて言われたら、しかもこんなイケメンから‥‥。
想像するだけでニヤけてしまう女性の気持ち、わかります。

酒漬け、タバコ漬けのポッチャリ体型のままではダメなんだ、と思っていたブリジットにしたら、夢のような告白に違いありません。今までの暮らしぶりを、何も変えなくていいというのですから。
もっとも、彼女の健康を考えれば、酒もタバコも少し控えたほうがいいことは論を待ちませんが。

健康といえば、本作の日本公開時のポスターには、次のような但し書きが添えられたタイプもあったといいますから、日本人のシャレのセンスというのもなかなか侮れませんね。
「ブリジットのライフスタイルを真似ると、貴女の健康を損なう恐れがあります」

(C)2000-2001 UNITED INTERNATIONAL PICTURES

☆危険な上司にときめく乙女心

話を告白に戻しますが、考えてみるとブリジット、大変モテる女性なのです。
しかも言い寄る男がコリン・ファースとヒュー・グラントですから、ありえないくらいラッキーな30代とも言えます。
こんなこと現実には起きないよ、リアルじゃないよ、と一部の女性ファンから声が上がりそうですが‥‥。

世の独身女性のハートを狙い撃ちする企画で、脚本も音楽もキャスティングも目一杯女性ウケを意識した結果が、これなんですね。
イケメンにモテすぎだよー、という嫉妬めいたブーイングはある種織り込み済みというか、確信犯というか‥‥。作り手にすれば、褒め言葉をもらったような感じかもしれません。

そこがアンリアルな分、主演のレネー・ゼルウィガーがリアルに体重増量したから大目に見て、とウィンクでもされているような気がしてきます。

それはそうと、ヒュー・グラント演じる上司のダニエルにこんな場面があります。まだ2人が付き合う前、ただの上司と部下の間柄の頃。ミニスカートで出勤したブリジットが席に着くと彼からのメールが。
開けてみると、「今日はスカートを忘れたのかな?」

いまなら完全にヤバい上司です(この記事は2023年3月15日に書いています)。
こんな上司の言うこと聞いてる場合じゃないですし、すぐさま会社の然るべきセクションに通報しなければいけません。

20年前はまだおおらかな時代だった。そう感心するやら驚くやら‥‥、感慨にふけっている間に、生涯の伴侶を見つけると誓ったはずのブリジットが、あろうことか、このどう見ても危ない上司にときめいてる姿を見せられます。そして私たちは心の中でこうつぶやくのです。
絶対に近づいてはいけないはずのところに、なぜか人は自ら近づいていってしまうことがあるんだよなあ。

20年前も現在も、そしておそらく何百年前の人も何千年先の人も、そこは変わらないような気がします。ドジと言ってしまえばドジなのですが、ブリジットのそういうところ、妙に「リアル」を感じる部分でもあります。

(C)2000-2001 UNITED INTERNATIONAL PICTURES

☆おひとり様は負け組ではない

ラスト・シークエンスは雪降りしきるロンドンの夜。
思いを伝えてから初めて、唐突に弁護士マークの訪問を受けるブリジット。部屋に招き入れた彼女は、いよいよ彼と結ばれる心の準備を開始。
すると不意に、ダニエルのときにはデカパンを履いていて恥ずかしかったことを思い出します。

急いで寝室に駆け込んで、セクシーな下着を選ぶブリジット。
リビングに通したマークには、「その辺の雑誌でも眺めてて」と言ってあったのですが、マークが手を伸ばした雑誌の下には彼女のあの日記が開いたまま置いてあり‥‥。

日記の数ページに目を通したマークは、コートを持って部屋を出ていってしまいます。
だって、この日記の最初の方には「マークなんか大嫌い」とか「マークってイヤな男」なんて書いてあるんですから。それも新年パーティーで目をそらされて、これで望みがなくなったと思ってヤケになって書いたなんて、日記からはわからないんですから‥‥。

着替え途中のブリジットは、彼が日記を見て出ていったと知り大慌てで追いかけます。下着姿のまま。雪が降りしきるロンドンの街へ‥‥。
ここでまた「Ain’t No Mountain High Enough」が流れ、ダイアナ・ロスのドラマチックなボーカルがブリジットの心を後押しします。

こうして物語は雪のラストシーンへなだれ込んでいくのです。

この場面とこの曲に、自分の心も後押しされた‥‥。
そう感じた独身女性が世界中でどれほどの数に上ったことでしょうか?

いまでは30代、40代の独身女性が「独身」だということで嫌な思いをすることは、この映画の頃より少なくなったのではないかと、想像しています。少なくとも日本では(この記事は2023年3月15日に書いています)。
「おひとり様」は着実に市民権を獲得してきた、と。それは喜ばしいことです。

少子化や人口減少が問題だと声高に叫ばれる昨今ですが、自分の好きなタイミングで好きな人と結ばれる権利が誰にでもあるはずです(「好きな人」が異性であるとは限りませんし、極論すれば、誰とも結ばれない権利だってあるはずです)。そういう個人の権利より優先される「社会」とか「国家」なんて幻想に過ぎないのですから、そんな声を気にする必要はありません。

子供を産みたい人たちが、産みたいタイミングで産んで幸せに育てていける‥‥。そういう社会の仕組み作りに、政治家や学者や官僚は全力で取り組んでほしいものです。
そしてその上で、それとは別次元の話として、個人の生き方の自由が尊重される世の中であってほしい。

ちょっと横道へそれましたが、ブリジットには自分で生き方を決める権利があるし、「おひとり様」でいる自由もある。そのことで後ろめたく感じたり、自信をなくす必要はない。
そんな当たり前のことを確認したくなったのです。
つまり、おひとり様は負け組ではない、ということですね。

新年のパーティーで始まったこの物語は、再び雪のシーズンを迎えました。我らがブリジットはいま、およそ1年に及ぶささやかな大冒険のクライマックス。
雪の中を下着姿で駆けていく背中を見ていると、こんなふうに声をかけたくなりました。

ブリジット、君は負け組なんかじゃない。
そりゃあ時にはドジって笑いものになったり、馬鹿にされることもあるけど、それにワインとタバコは手放せないけど、それは少し控えめにした方がいいと思うけど‥‥、でも君はいつだって可能性のかたまりで、自分の欲望に正直で、人生を懸命に生きている、愛すべきひとりの女性に違いないのだから。

日本最大級の動画配信サービス

31日間無料で試してみるなら
〈PR〉

モリゾッチ

モリゾッチ

10代からの映画熱が高じて、映像コンテンツ業界で20年ほど仕事していました。妻モリコッチ、息子モリオッチとの3人暮らしをこよなく愛する平凡な家庭人でもあります。そんな管理人が、人生を豊かにしてくれる映画の魅力、作品や見どころについて語ります。

女性監督特集

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


TOP
CLOSE