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『DUNE/デューン 砂の惑星』レビュー☆未知なる世界へ踏み込む勇気
映像化は困難と言われ続けてきたSF小説の映画化作品です。
3部作として製作される構想があるようですので、本作はいわば第1章ということになります。
- 『DUNE/デューン 砂の惑星』
- 脚本
エリック・ロス/ジョン・スペイツ/ドゥニ・ヴィルヌーヴ - 監督
ドゥニ・ヴィルヌーヴ - 主な出演
ティモシー・シャラメ/レベッカ・ファーガソン/オスカー・アイザック/ジェイソン・モモア/ゼンデイヤ/ハビエル・バルデム - 2021年/アメリカ/155分
※以下の記事は作品の魅力を紹介するため最小限のネタバレを含みます。あらかじめご了承ください。
☆あらすじ
遥か遠い未来の宇宙。
そこは中世ヨーロッパのように、ひとりの皇帝と星々を治める領主たちとの主従関係で成り立つ世界であった。
砂に覆われた惑星アラキスは別名デューンと呼ばれ、宇宙で最も有用な物質とされるメランジという香料を産出する唯一の星として知られていた。
長い間アラキスはハルコンネン家の領地とされてきたが、あるとき皇帝の命により、ハルコンネン家は領主の座を追われることになる。代わってアラキスを治めることになったのが、アトレイデス家だった。
ポール・アトレイデス(ティモシー・シャラメ)は、アトレイデス家の当主であるレト(オスカー・アイザック)と母ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)の間に生まれた。
父母や忠臣ダンカン(ジェイソン・モモア)らともにアラキスへ赴いたポールは、その星の砂の中に潜む巨大な砂虫(サンドワーム)と、フレメンと呼ばれる砂漠の民の存在を知る。
ある日父レトとポールは、ダンカンの導きによりフレメンの部族長であるスティルガー(ハビエル・バルデム)と対面する。アラキス統治への協力を要請するレトに対して、スティルガーは、我々の住処である砂漠にはいっさい近づくな、と言い放った。帝国の領主に対する敬意などは、微塵ももち合わせていないフレメンであった。
この頃ポールは、奇妙な夢に悩まされていた。
自分が砂漠にいて、見知らぬ少女(ゼンデイヤ)に導かれ進んでいくのだ。
突如現れるナイフ‥‥。真っ赤な血‥‥。
恐ろしい夢だ。
だが、その夢が現実になるときはすぐにやってくる。
実は、アラキスへの領地変えは、皇帝とハルコンネン家による陰謀であった。台頭著しいアトレイデス家を亡き者とするため、両者は手を組んだのだ。
ハルコンネン軍と皇帝軍の夜討ちを受けレトは命を落とす。ダンカンはポールとジェシカを逃すため犠牲となる。
2人乗りの小型機で砂嵐の中へ突っ込んでいくポールとジェシカ。
砂漠の奥深くに不時着した2人は、砂漠の民フレメンと遭遇するのだったが‥‥。
☆SFファンが待ち望んだ映画化
アバンタイトルが明けると、「10191年」とスーパーされます。
我々の普通の感覚で見れば、これは西暦を指していると思われます。ということは、いまからざっと8,100年ほど先の宇宙の話、ということになります。
まず最初に思うのは、そんな遠い未来にも、まだこのような愚かで醜い争いを人類はしているのか、ということです。
この頃なんか部下Aが勢いづいてきて、調子に乗って自分の地位を脅かしそうだから、ここらでちょっと痛めつけておこう。そうだ、部下Aのライバルになる部下Bにも手を貸してもらおう‥‥。
こんな了見の狭いボスが全宇宙を統治しているなんて、というか、この愚かさに気づかない人類が8,100年先まで存続することができるのでしょうか?
いきなり原作批判のように思われるかもしれませんが、そうではありません。SF映画ファンの単なる独り言です(あくまで個人の感想です。多様な意見や感想や独り言で、世界は成り立っています)。
そして次に思うのが、なんだかどこかで聞いた話だぞ、ということ。
すぐに思い浮かぶのが、『スター・ウォーズ』シリーズ(1977年〜2019年)と『風の谷のナウシカ』(1984年)ですね。
本作は、アメリカの作家フランク・ハーバートが1965年に発表したSF小説『デューン砂の惑星』を原作としています。なので、こちらが元祖、ということになるのですね。
言ってみれば、向こうが影響を受けてこちらに似てきたのだから、なんか似てるぞ、となるのはやむを得ないこと。そのほかにも、『アバター』(2009年)や『ハリー・ポッター』シリーズ(2001年〜2011年)にもインスピレーションをもたらしたことでしょうし、まだまだたくさんのSF映画に刺激を与えたことは間違いないでしょう。
そんな原作ですが、過去に幾多の映像化の試みが頓挫してきました。
最もよく知られているのが、1970年代にアレハンドロ・ホドロフスキー監督によって企画された10時間にも及ぶ超大作構想です(制作中止にいたった経緯は、『ホドロフスキーのDUNE』として2013年に公開されました)。
その後デイヴィッド・リンチ監督によって『デューン/砂の惑星』(1984年)が製作されましたが、多くの原作ファンを満足させる仕上がりにはならなかったようです。
それ以降はテレビ・シリーズとして映像化されたのみで、今回ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の手によって、久しぶりに映画化が実現した‥‥、原作ファンやSFファンにとっては待望の、待ちに待った映画化がついに実現した、ということになります。
☆映像技術とティモシー・シャラメの存在感
さて、そんな本作の見所といえば、やはり「映像化は至難の業」と言われ続けた原作の世界を、最新の技術を駆使してヴィルヌーヴ監督がどのような映像に落とし込んだか、ということに尽きるでしょう。
あらゆる物を呑み込む凶暴なサンドワームの脅威。
「羽ばたき機」と呼ばれる、トンボの羽のような翼でヘリコプターのように飛ぶ飛行機(これは、宮崎駿監督の『天空の城ラピュタ』にもよく似た物が登場していましたね)。
広大な砂漠とそこに適応した不思議な小動物‥‥。
見事な映像が並び、本格SFエンタテインメントとして高い評価を得たのも、うなずけるところです。
そんな映像技術の進歩と並んで、困難な原作の映像化を成功に導く要因となったものをもうひとつ挙げるとすれば、それはティモシー・シャラメを主役に得たことではないでしょうか。
主人公ポールは「ベネ・ゲセリット」という女子修道会に属する母から、人を意のままに操る「声」を習得する途中です(この辺り、なんだかハリー・ポッター的ですね。もっとも、あっちは両親とも殺されてしまいますけど‥‥)。
そのほかにも恐怖をコントロールする術を学んだり、精神世界の話がよく出てきます(こちらは、ジェダイの「フォース」を連想させますね)。
そんな場面で、ティモシー・シャラメの中性的な風貌が抜群のリアリティと存在感を発揮します。
劇中で何度も暗示される「救世主」のイメージに、これほどピッタリな役者はほかにいないのではないでしょうか。
本作のハイライトは、ポールが母ジェシカとともに砂漠の奥深くへ落ち延びるシーンです。操縦桿を握るポールは、自らの恐怖をコントロールし、荒れ狂う砂嵐の中へ突き進んでいきます。敵の追っ手は付いてくることができません。
凶暴なサンドワームが潜んでいる砂漠。帝国の領主を敵視する砂の民フレメンの住処である砂漠。未知なる世界へ、ポールは踏み込んだのです。
その後スティルガー率いるフレメンの部族と遭遇し、夢に出てきた謎の少女(チャニという名で、部族の一員でした)とも対面します。
実はそのあとにまたひとつ大きな展開があるのですが、ここでは触れずにおきます。
☆未知なる世界へ踏み込む勇気
え、そこで終わるの?
触れなかったエピソードの直後唐突にエンドロールが表れて、モリゾッチは不覚にもそう声を上げてしまいましたが、思えば本作はいわばプロローグ。後に続く物語のための壮大なる予告編でもあるのです。
主人公ポールが未知なる世界へ踏み込む勇気をもっていたこと、それが彼の命を救い、フレメンとの出会いを生み‥‥、ひいてはそれが、続編以降で描かれるこの物語の核心へ、その運命へとポールを導いていく。
ヴィルヌーヴ監督がここで第1章(本作)を終わらせたのは、原作の構成の中にあるこの要素を強調したかったからではないでしょうか。
そして、この原作が多くの映像作品や物語に影響を与えた理由もまた、ここにあるのではないか。そう、モリゾッチは思っています。
なぜなら、人は誰しもポールのように生きるからです。
別に名家の跡取りではなく、親を殺されたわけでもなく、「救世主」になる運命など背負っていなくても、人は皆、未知なる世界に踏み込んでいくのです。踏み込まなくてはいけない、と言ったほうがいいかもしれません。
平凡な家庭で育った取るに足らないモリゾッチの人生でさえ、親の家を出て未知なるひとり暮らしの学生になり、就職して未知なる社会人生活を送り、会社の中で異動になれば未知なる職場で未知なる業務に就き‥‥、未知なるものの連続です。
さらに転職すれば、未知なる会社、未知なる業種が待っています。
プライベートでも、結婚すれば未知なる夫婦生活に挑むことになり、女性は特に出産という未知なる大仕事が控えているかもしれません。そして子供が生まれれば、男女ともに親という未知なる人生のステージが待っています。
そして、親になれば父性や母性が目覚めるように、人は皆、未知なる世界へ踏み込むたびに、自らの中に眠っている能力を覚醒させて、新しい自分になっていく。
それが人生なのです。
だから私たちの誰もが、この物語のポールに共感します。そして、勇気をもらったような気持ちになります。
それが、この物語の魅力なんですね。
さて、私たちと同じようにポールもまた、砂漠という未知なる世界で、それまで眠っていた能力を覚醒させます。砂漠の空気中に漂っているメランジの向精神作用によって増強されたその能力は、未来を知る能力でした。
来たる続編では、この能力を開花させたポールの逆襲が見られるものと思います。
ダース・ベイダーのような強烈な悪役キャラは登場しなかった本作ですが、次回作は果たしてどんなエンタテインメントに仕上げてくれるのか。
ヴィルヌーヴ監督の手腕に期待して、待ちたいと思います。
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