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『ゴースト/ニューヨークの幻』レビュー☆人間は人を想う生き物

出典:本作DVDパッケージより
ラブロマンスの森

恋愛映画のど真ん中でありながら、ファンタジーにしてミステリー。なおかつ痛快な復讐劇にして、心温まるコメディーであり、しかも主人公は幽霊‥‥。
そう聞けば、誰もがこの名作を思い浮かべることでしょう。


  • 『ゴースト/ニューヨークの幻』
  • 脚本
    ブルース・ジョエル・ルービン
  • 監督
    ジェリー・ザッカー
  • 主な出演
    パトリック・スウェイジ/デミ・ムーア/ウーピー・ゴールドバーグ/トニー・ゴールドウィン
  • 1990年/アメリカ/128分

※以下の記事は作品の魅力を紹介するため最小限のネタバレを含みます。あらかじめご了承ください。

☆あらすじ

ニューヨークの銀行に勤めるサム(パトリック・スウェイジ)は、陶芸家として成功しつつあるモリー(デミ・ムーア)と同棲を始める。同僚のカール(トニー・ゴールドウィン)も含めた3人は仲がよく、楽しい日々を送っている。

結婚も意識し始めたそんなある夜、モリーと2人で夜道を歩いているときにピストル強盗に襲われる。揉み合ううちに強盗が発砲し、逃げる男を懸命に追うサムだったが‥‥。取り逃して戻ってみると、モリーが血だらけの自分を抱き抱えているのだった。

自分は死んだのだ。それを見ている今の自分は幽霊で、自分の姿は誰にも見えない。
彼をそのことを理解した。

幽霊としてモリーと自分の部屋に戻ってきたサムだったが、モリーの留守中に、自分を撃ち殺したあの強盗が部屋に忍び込むのを見る。強盗を尾行して住んでいる場所を突き止めた彼は、偶然、近所の怪しい霊媒師オダ・メイ(ウーピー・ゴールドバーグ)が自分の声を聴き取ることができると知る。

サムはオダ・メイを通訳にしてモリーに話しかける。警察に行ってほしい。モリーの身が危険だ。
しかし、怪しい女の言うことなどモリーが気にするはずはなかった。
やがてサムの心の中に、ひとつの疑念が湧き上がる。

それは、自分は最初から何者かに狙われ殺害されたのではないか、というものだったのだが‥‥。

出典:DVDパッケージより

☆ロクロを回すシーンはあまりにも有名

サムがモリーを背後から抱きしめ、2人でロクロを回す場面はあまりにも有名で、本作をちゃんと観たことがないという人でも、この場面だけはどこかで(あるいはパロディなどで)目にしているのではないでしょうか?
このシーンで流れるライチャス・ブラザーズの「アンチェインド・メロディ(Unchained Melody)」も、この映画で知ったという方は多いと思います。

そのあとに続く官能的なラブシーンまでの一連のシークエンスは、愛し合うことの喜びを歌い上げて、主人公2人への共感を観客の心に植えつける序盤のハイライト。
しかし皮肉なことに、それは幸せだった2人の最後の姿でもあるのです‥‥。

そんな幽霊の主人公を演じているのは、テキサス出身のパトリック・スウェイジ。
『アウトサイダー』(1983年)は、フランシス・フォード・コッポラ監督が『ワン・フロム・ザ・ハート』(1982年)の商業的失敗を挽回するために挑んだ青春映画ですが、C・トーマス・ハウエルやマット・ディロンらとともに出演したパトリック・スウェイジは、「ブラット・パック(Brat Pack)」と名付けられた青春映画スター軍団に数えられるようになりました。

それに続く、アイスホッケー選手の青春を描いた『栄光のエンブレム』(1986年)、夏の避暑地を訪れた裕福な家庭の娘と現地のダンス・インストラクターとの恋を描いた『ダーティ・ダンシング』(1987年)などで、幼い頃からバレエで鍛えた運動能力の高さを遺憾なく発揮しています。

2009年に57歳で早すぎる死を迎えたパトリック・スウェイジ。
1980年代の青春映画を駆け抜けた彼がその総仕上げと言わんばかりに幽霊役に挑戦した本作は、彼の代表作となり、長く人々の心に残る作品となりました。

80年代のハリウッド青春映画の出演者たちが「ブラット・パック(Brat Pack)」と総称されたのは上記の通りですが、その顔ぶれといえば、上記以外ではエミリオ・エステベス、アンソニー・マイケル・ホール、ロブ・ロウ、アンドリュー・マッカーシー、モリー・リングウォルド、アリー・シーディ、そして忘れてならないのはデミ・ムーア‥‥。

ニューメキシコ州出身のデミ・ムーアは10代の頃からモデルとして活躍。『セント・エルモス・ファイアー』(1985年)で脚光を浴び、『きのうの夜は…』(1986年)、『ウィズダム/夢のかけら』(1987年)などでヒロインとしての存在感を高め、満を持して臨んだ本作が彼女にとっても代表作となりました。

ショートヘアにハスキーボイス。ときに少年のような不思議な魅力を見せる本作のデミ・ムーアは、やはり80年代アメリカ青春映画の集大成的ヒロインと言えるのではないでしょうか。

そして本作のコメディー・パートを担当しているのが、ニューヨーク出身のウーピー・ゴールドバーグ。エミー賞、グラミー賞、アカデミー賞、トニー賞の4つの賞を制覇したことでも知られる芸達者ですね。

8歳の頃から演劇の世界に入り舞台やテレビで活躍してきましたが、スティーヴン・スピルバーグ監督の『カラーパープル』(1985年)で映画初出演にして初主演。この作品が第58回アカデミー賞で10部門にノミネートを果たす高評価を得て以降、ほぼ毎年複数作品に出演するという超ひっぱりだこ(1年に出演作が4本公開なんて年も)となりました。

本作で演じた下町のインチキ霊媒師は、普段は本物の霊を呼び出すことなどできないのですが、なぜかサムの声だけは聞こえるという特殊能力の持ち主(彼女の先祖が本物の霊媒師だった、という説明?が劇中ではなされますが)。最初は嫌がっていながら、幽霊となったサムとモリーの間をつなぐ重要な役割を果たし、ついには2人の最大の理解者・支援者へと変貌を遂げる姿をコミカルに演じて、第63回アカデミー助演女優賞に輝いています。

©︎ 1990 Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved.

☆彼の命を奪ったものは何か?

前途ある若者が突然命を奪われ幽霊となってしまうわけですが、途中からこれが物盗りに見せかけた殺人ではないかという疑念が芽生え、強盗に扮した実行犯から指示役(首謀者)へたどり着くあたりは一転サスペンス調というか、ミステリー・タッチというか‥‥。

その一方で、モリーの身を守るため、さまざまな物体に力を伝えて動かす方法を先輩幽霊に習ったり(『スター・ウォーズ』のフォースのようでもありますが、まあ、ポルターガイスト現象ですね)、霊媒師オダ・メイを介してモリーに何度もコンタクトを試みるくだりは、コメディー要素が勝ります。

終盤には、会得したポルターガイスト攻撃で実行犯と指示役に痛快な復讐というか、お仕置きというか‥‥。

しかし、なんと言っても胸に迫るのは、オダ・メイの言うことをまったく受け付けなかった傷心のモリーが、少しずつサムの幽霊という存在を信じ始めるところです。

2人しか知り得ない想い出をオダ・メイが知っている。
サムの口癖が、オダ・メイの口から出る。
オダ・メイがドアの下から差し入れたコインを、ドアのこちら側でサムが動かす。
ゆっくりと、少しずつ、モリーの手もとまで‥‥。

そのコインは、本作のトップシーンでサムがモリーにお守りとして持たせたのと同じコインでした。
モリーの目に涙が溢れます。
信じられないけど、そこにサムがいるとしか思えないのです。

サムは幽霊となったいまでも、モリーのことを想っています。
それはモリーも同じこと。死んだからといって、サムを忘れることなどできません。
いまでもずっと、サムのことを想い続けているのです。

人間は人を想う生き物‥‥。

本作がさまざまな映画的要素を盛り込んだにも関わらず、観客から見ればやっぱり恋愛映画のど真ん中であり続けるのは、この2人の想い合う心が、もどかしくも切なくも想い合わずにはいられない2人の姿が、多くの人の胸に刺さるからに違いありません。

©︎ 1990 Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved.

☆ハロウィンに観たい幽霊映画の大定番

さて、これはネタバレになりますが、サムの命を奪った首謀者の話を少しだけしておきましょう。
それは銀行の同僚であるカール。プライベートでも親友でモリーとも仲良しだった彼ですが、実はある方法で銀行の金を横領していて、資金の妙な動きに気づいたサムが邪魔になったので、消すことにしたのです。

実行犯の男を金で雇い、通りすがりの強盗と見せかけてサムを‥‥。
普通なら完全犯罪になりそうなこの計略ですが、殺されたサムの霊が成仏できずにフラフラしていて、真実を知ってしまったとは、不運というか、災難というか、いずれにしろ予想外の展開だったに違いありません。

実行犯ともどもサムのポルターガイスト攻撃で追い詰められ、パニックになった彼らは自ら無謀な行動に出て死んでしまいます(サムとしてはあくまでお仕置きをしたつもりなのですが、お灸が効きすぎたという形。直接手を下したのがサムでないことは、念の為言い添えておきます)。

サムが死んだときと違うのは、この2人が死んだときには、どこからか恐ろしい声が響いてきて、黒い影のようなものがたくさん湧いてきて、嫌がる本人を無理やりどこかへ連れ去ってしまうことです。
ちなみにサムのときには、上空から白いきれいな光が差してきたんですけどね。

で、その黒い影が現れるシーン。
映像のオプチカル処理には「時代」を感じますが、最近見慣れたCGとはまた別の味わいがある、とも言えるような気が‥‥。

いずれにしても、心に残るのは、人ではなく金を想った人間の末路‥‥。
本来、人間は人を想う生き物、であるはずなのに‥‥。
そういうことに尽きるかと。

死と霊をストーリーにうまく取り込んだ本作だから、そしてさらに、連れ去りに来るのが安そうなオプチカル処理の悪霊?たちだから、なおさらわびしく、虚しく、哀れに感じる効果があるのかもしれません。

本作の成功を受けて、死後の世界や幽霊の存在をストーリーに取り込む作品は一段と増えた印象があります。生身の人間しか出てこない物語に比べてストーリー展開の幅が広がり、新しい感動が生まれることにもつながります。映画だけでなく、テレビドラマなどにも、その影響は小さくなかったと思います。

そんな中で、本作の鑑賞後におすすめの作品をひとつ挙げるとすれば、デヴィッド・ロウリー監督の『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』(2017年、レビュー記事はこちらから)で決まりでしょう。

本作同様、突然の死を迎えた幽霊が、成仏しきれず恋人と暮らしていた部屋に戻ってくるのですが‥‥。さて、そこからの展開が本作とはかなり違って、最終的にはまったく異なる境地へと私たちを連れて行ってくれます。

ふたつの作品を続けて観ることで、映画という表現手段がもつ奥行きやダイナミズムを感じることができ、映画ファンにとっての貴重な体験をあなたに提供してくれることでしょう。
さて、あなたは、どちらの作品を好きになるでしょうか?

映画好きの醍醐味って、きっとこういうところにあるのでしょうね。

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モリゾッチ

10代からの映画熱が高じて、映像コンテンツ業界で20年ほど仕事していました。妻モリコッチ、息子モリオッチとの3人暮らしをこよなく愛する平凡な家庭人でもあります。そんな管理人が、人生を豊かにしてくれる映画の魅力、作品や見どころについて語ります。

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