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『恋とニュースのつくり方』レビュー☆諦めないことの眩しさ

(C)2010 Paramount Pictures. All rights reserved.
コメディーの森

テレビ局を舞台にしたコメディーを紹介します。
視聴率を上げるために奮闘するヒロインの姿が、前向きなパワーを与えてくれる作品です。


  • 『恋とニュースのつくり方』
  • 脚本
    アライン・ブロッシュ・マッケンナ
  • 監督
    ロジャー・ミッシェル
  • 主な出演
    レイチェル・マクアダムス/ハリソン・フォード/ダイアン・キートン/パトリック・ウィルソン/ジェフ・ゴールドブラム
  • 2010年/アメリカ/107分

※以下の記事は作品の魅力を紹介するため最小限のネタバレを含みます。あらかじめご了承ください。

☆あらすじ

朝番組の雇われプロデューサー奮闘す

地方のテレビ局で早朝番組のスタッフとして働いている28歳のベッキーは、ある日突然経費削減のためクビを宣告される。
テレビの現場は彼女の子供の頃からの夢だった。恋人がなかなかできない(普通の人と時間帯がずれているため)ことも苦にせず打ち込んできただけに、ショックは大きかった。
母からは、8歳や18歳なら夢を追ってもいいが28歳はもう夢を追う年齢じゃない、と言われる始末。だがベッキーは、テレビ以外の職場で働く気にはならなかった。全米のテレビ局に履歴書を送り、職探しの日々だ。

そんな彼女にミューヨークのテレビ局から声がかかる。早朝の情報番組「デイブレイク」のプロデューサーが空席になったのだ。
勇んで面接に駆けつけるベッキー。猛烈にやる気をアピールするベッキーだったが、面接した管理職から、君恥ずかしくないの、と言われてしまう。しまった、やりすぎて嫌われた‥‥、そそくさとその場を去るベッキーだったが、後で連絡があり、面接は合格だという。

やったー、全国ネットの朝の情報番組のプロデューサー。夢が叶った、いや、番組を成功させてこれから夢を叶えるのだ。有頂天のベッキーはマンハッタンに部屋を借り、プロデューサーとしてのキャリアをスタートさせる。

だが、「デイブレイク」は弱小テレビ局の中でも一番のお荷物番組だった。
聞けば、この11年でプロデューサーは14回交代したという。
予算は最低。スタッフルームのドアノブが壊れていても、直す余裕がない。当然スタッフの士気は低いが、キャスターもそれ以上にやる気がない。外部からの生中継の企画を提案しようとすると、エアコンのない所には行きたくないと拒絶されるありさまだった。

ベッキーはまず、男性のメインキャスターをクビにする。本番直前の打ち合わせにも控室から出てこないやる気のなさが、目に余ったからだ。スタッフからは拍手喝采だったが、着任早々メインキャスター探しという難題を背負い込むことになった。

思案の末に彼女が目をつけたのが、マイク・ポメロイという元報道キャスター。かつて数々の栄誉ある賞に輝いた大物ジャーナリストで、実はベッキーがテレビの現場を志したのは若き日の彼に憧れたからだった。
彼はいま「デイブレイク」を放送している局と専属契約を結んでいるが、気に入った特集企画にしか出ない気難しさが災いして報道番組にもほとんど出演機会がなくなっていた。

(C)2010 Paramount Pictures. All rights reserved.

しかし、迫りくる番組打ち切りの危機

ニュースの本流を歩んできたマイクが朝の情報番組に興味を示すわけがない。周囲はそう思ったし、オファーを受けたマイク本人も、なぜ俺が? という反応。だがベッキーは怯まなかった。
実は彼と局との契約には、6ヶ月間画面に出ず、局からの提案を断った場合には、その時点で契約終了、と定められていたのだ。
ベッキーがそのことを説明すると、マイクは観念するしかなかった。

こうしてマイクをメインキャスターに迎えての新生「デイブレイク」の船出は局内でもちょっとした話題になり、ベッキーはマイクをよく知る報道の社員からデートに誘われることに。
大物メインキャスターだけでなく、恋人まで手に入るかも。
浮かれるベッキーだったが、人生そんなに甘くはなかった。

マイクは無愛想にニュースを解説するばかりで、共演の女性キャスターとの軽妙なトークもいっさいなし。情報番組特有の軽いネタや料理コーナーには全く参加しない。同じスタジオにはいるが、自分だけ別の番組をやっているようなスタンスだ。
番組の雰囲気は最悪で、それを反映したのか視聴率は下がる一方。ついに上層部は、あと6週間で1.5%数字が上がらなければ「デイブレイク」を打ち切ると決断してしまう。

絶体絶命のベッキー。だが、彼女はまだ諦めてはいなかった‥‥。

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出典:DVDパッケージより

☆元気な主役に豪華な脇役

『恋とニュースのつくり方』という邦題ですが、物語に占める「恋」の比重はかなり小さく、基本的にはヒロインの職場奮闘記という趣の作品です。
原題は『Morning Glory』。直訳すると「朝の栄光」となりますが、これは「朝顔」を指す英語です。

夏の朝日を浴びて可憐な花を咲かせる朝顔のように、本作のヒロイン・ベッキーも早朝の情報番組という過酷な現場で花開くべく、懸命に働きます。
その懸命さが時に空回りすることもありますが、しまった、と肩をすくめた次の瞬間、もう前を向いて走り出している。そんな何事にもメゲない性格が、彼女の何よりの魅力です。

脇を固める配役も豪華です。

ダイアン・キートン演じるベテラン女性キャスターは、すっかり惰性で毎日をこなすだけになっていましたが、ベッキーの提案で新しいコーナーに挑戦するうち一皮も二皮も剥け、やがてベッキーの支持者になっていきます。新企画に次々トライする彼女のハッチャケぶりも見ものです。

弱小テレビ局のやる気なし管理職は、ジェフ・ゴールドブラム。いかにもな感じの生気のなさがいい味となり、ベッキーの若さや活力を引き立てます。

(C)2010 Paramount Pictures. All rights reserved.

☆諦めることを知らないヒロイン

そして問題児マイクのハリソン・フォード。
いつも思うのですが、インディ・ジョーンズでもハン・ソロでもないハリソン・フォードは、やっぱりちょっと新鮮です。

本作のマイクは気位の高さが邪魔をして周りを寄せつけない気難し屋のイメージが染み付いてしまっていますが、時折見せる戸惑ったような表情からは、実は茶目っ気も軟弱な一面もある魅力的な人間像を予感させ、物語にちょっとした厚みを持たせることに成功しています。
マイクはベッキーにいつ心を開くのか? 多くの人は、そんな興味に引きずられてこの物語を見ていくことになるのではないでしょうか。

こうしたベテラン俳優陣に囲まれて臆することなく伸び伸びと演じている(少なくとも画面からはそう見えます)ベッキー役のレイチェル・マクアダムス。まさにその伸び伸び感が、前向きで物怖じしないヒロインの魅力を全開で表現することにつながっています。

とにかく、彼女は前向きで、諦めるということを知りません。
物語の冒頭で地方のテレビ局をクビになったときも、やっと全国ネットの番組で仕事できると思ったらとんでもないお荷物番組だと分かったときも、彼女は諦めませんでした。
メインキャスターに起用したいマイクが情報番組に全く興味がなくても諦めない。
だから当然のことですが、番組が打ち切りの危機に瀕しても、彼女は絶対に諦めないのです。

(C)2010 Paramount Pictures. All rights reserved.

☆前向きなパワーの素晴らしさ

その懸命に前を向く姿は、若さゆえの幼稚さや無謀さと背中合わせで、危なっかしいことこの上ないのですが、モリゾッチのようにとうが立った人間から見ると、あまりのひたむきさと無防備さゆえに、まばゆく、神々しくさえ感じてしまいます。
諦めないことの眩しさ、とでもいうのでしょうか。

こんなシーンがあります。
恋人の家に泊まるときには携帯を冷蔵庫へ入れる(鳴っても気づかないように)のが習慣でしたが、あるとき彼女は、ニュースを逃したくないからと携帯を冷蔵庫から取り出して帰ってしまいます。もちろん恋人には丁寧に謝った上ですが、やはり自分より仕事を選んだということが彼には分かります。
番組の打ち切りを回避するため、完全にプライベートを犠牲にした瞬間です。

これなどは、モリゾッチにも激しく身に覚えがあります。
人生の前半、特に20代から30代前半までのある時期、すべてを投げ打って仕事に打ち込む瞬間がある。
これは男女を問わず、どんな仕事かを問わず、多くの人が経験する局面ではないでしょうか(モリゾッチの場合は、そういう局面をくぐり抜け家庭を持ってからは、すっかり家庭優先、プレイベート優先に切り替えましたけど)。

そう考えると、「朝顔」という原題には、早朝番組に咲いた花という意味とは別に、若きヒロインとか、若さ特有の前向きなパワーで奮闘するヒロインといった意味も、込められているような気がしてきます。
なんといっても、朝顔から連想するのは「夏」と「朝」。どちらも、人生に置き換えれば「前半」、つまり「若さ」とか「青春」というイメージにぴったりですもんね。

さて、そんな本作ですが、人生の「朝」でも「夏」でもないという方にも、一編の寓話として楽しんでいただけると思います。
ほんの一例として、気がつけばもう人生の「秋」、しかも下手するともうちょっとで「夕方?」みたいなモリゾッチが、この寓話からどんな教訓を得たかといいますと、以下のようになります。

諦めなかった者だけがゴールにたどり着く。

その心は‥‥、諦めなければ必ずゴールにたどり着くわけではないけれど、諦めてしまった者がゴールにたどり着くことはない。だから、ゴールを目指すのであれば、絶対に諦めてはいけない。

さっきから何度も言っていますが、この映画のヒロインは絶対に諦めない人なのです。

もちろん、ストーリー展開はかなり甘めと言いますか、ご都合主義的な部分もありますが、そこはコメディーです。ストーリーをリアルに転がしたのでは味わえない楽しさと心地よさが詰まっています。クスクスと笑わされたり、ニヤリとしている間に、気がつくと自分の気持ちが少しだけ前を向いていた、なんてことも大いに期待できると思います。
作り手の狙いは、まさにそこなのですから。

というわけで、近頃前向きなパワーがちょっと不足してるかなとお悩みの諸兄にこそ、この映画をお勧めします。目標が何であれ、諦めないということは素敵だなと、素直に思わせてくれる作品です。

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モリゾッチ

10代からの映画熱が高じて、映像コンテンツ業界で20年ほど仕事していました。妻モリコッチ、息子モリオッチとの3人暮らしをこよなく愛する平凡な家庭人でもあります。そんな管理人が、人生を豊かにしてくれる映画の魅力、作品や見どころについて語ります。

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