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『シャーロック・ホームズ』レビュー☆持つべきものは頼れる相棒
探偵と聞いて真っ先にこの名前を思い浮かべる方は、大変多いのではないでしょうか。実に多くの映像コンテンツが生み出されてきましたが、その中から特にアクション要素の強いミステリーとなったこの作品を取り上げようと思います。
- 『シャーロック・ホームズ』
- 脚本
マイケル・ロバート・ジョンソン/アンソニー・ペッカム/サイモン・キンバーグ - 監督
ガイ・リッチー - 主な出演
ロバート・ダウニー・ジュニア/ジュード・ロウ/レイチェル・マクアダムス/マーク・ストロング - 2009年/イギリス・アメリカ・オーストラリア/128分
※以下の記事は作品の魅力を紹介するため最小限のネタバレを含みます。あらかじめご了承ください。
☆あらすじ
時は19世紀末。場所はロンドン。
探偵シャーロック・ホームズ(ロバート・ダウニー・Jr)は同居人であるジョン・ワトソン(ジュード・ロウ)医師の助けを借りて、連続殺人事件を解決する。
5人の女性を黒魔術の儀式と称して殺害したブラックウッド卿(マーク・ストロング)は絞首刑となり、ワトソン医師が死亡を確認した。
その3日後、ベーカー街221Bのホームズの部屋へ旧知のアイリーン・アドラー(レイチェル・マクアダムス)が訪ねてくる。旧知と言っても、このアメリカ生まれの女詐欺師とはある事件を通じて知り合い、ホームズは彼女にすっかり心を奪われ、見事に出し抜かれたという苦い過去がある。
アイリーンはルーク・リオドンという名の男を探して欲しいとホームズに依頼する。捜索を開始した矢先、ホームズとワトソンのもとにブラックウッド卿が墓から蘇ったとの情報が入る。
警察の協力を得て墓を掘り起こし、ブラックウッドの棺を開けてみると、中から現れたのは探していたリオドンという男の死骸だった。
死体から得た手がかりを頼りにリオドンの家を突き止めたホームズは、そこに残された怪しげな実験の痕跡に驚愕する。科学と魔術の融合。ひとことで言うなら、そこで行われていた研究はまさにそう表現するにふさわしい何かであるようだった。
ブラックウッドは生きている。
ホームズは確信した。
リオドンの研究は完成し、用済みとなった彼はブラックウッドに殺されたのだ。
そしてその推理の正しさを証明するように、ブラックウッドによる次なる犠牲者が明らかになるのだった‥‥。
☆武闘派ホームズの目の覚めるアクション
ご存じアーサー・コナン・ドイルの小説『緋色の研究』(1887年)にて初お目見えして以来、世界中で愛され続けてきた名探偵シャーロック・ホームズ。
ホームズ映画の歴史は映画そのものの歴史とほぼ同じ、と言われるほど初期の初期、無声映画の頃から始まって、これまでに幾多の映像作品が作られてきました。
ホームズを演じた俳優も数知れません。
そんな中にあって、ロバート・ダウニー・Jr 演じる本作のホームズは、間違いなく一番の武闘派と言えるでしょう。映画冒頭から、ワトソンとともに目の覚めるようなアクションを見せてくれています。
もともと原作でも、ボクシングはかなりの腕前である上に、東洋武術の「バリツ」にも秀でていたとされるホームズですが(この「バリツ」については、日本発祥の柔術だとする説、あるいは柔術に打撃技とステッキ術を加えた護身術「バーティツ」の誤記説‥‥、など諸説ありますが、いずれにしても柔道のような格闘技も心得ていたということのようです)、本作はホームズ像のそういった部分を前面に押し出したというか、強調したというか‥‥、とにかく、そういった作りになっています。
始まってものの10分もすれば、ヒーローもののようなテンポのいいアクションも楽しめる映画なんだ、ということが理解できると思います。
前年に『アイアンマン』(2008年)でトニー・スタークを演じたロバート・ダウニー・Jr ですが、本作ではパワードスーツの力を借りず、生身のヒーローとして躍動する姿を披露します。なるほど、こういうホームズとワトソンも、これはこれでありかな。そう思わせるストーリーテリングの妙は、ガイ・リッチー演出のなせる技といったところでしょうか。
☆謎は解明されても事件は続く
さて、マーク・ストロング演じるブラックウッド卿ですが、魔術の力と信じ込ませて人々を従わせ、イギリス政府の転覆を画策しています。その真の狙いは、イギリス一国にあらず。アメリカを再び植民地として支配した上で、さらにその先にある世界征服を目指します。
なんと壮大な夢でしょう。
しかし彼は、そのために周到に準備を重ねてきました。科学的なトリックを用いて死んだように見せかけ、墓場から蘇った魔術師として、人々を恐怖で支配しようとしたのです。
彼の狙い通りに、「ブラックウッド蘇る」の報は瞬く間にロンドン中に広まります。彼は満を辞して議会に姿を表します。そして、自分に従わない議員は全員この場で死ぬであろう、と予言します。
実は議場の地下に遠隔操作で毒ガスを発生させる装置が置いてあり、自分の息のかかった議員だけには解毒剤を渡していたのでした。
はい。もうお気づきのように、本作には「犯人は誰であるか」という謎解きの楽しみはありません。
犯人はブラックウッドと決まっています。
では、そのブラックウッドの犯行はどのようなトリックによって可能になったのか?
そして、彼の狙いはどこにあるのか(上記のようなことです)?
その謎が、ホームズの推理によって解明されていきます。
☆ワトソンとアイリーン
しかし、事件の性質上、解明しただけでは解決したことにはなりません。ブラックウッドの反抗を阻止しなければ、被害はさらに拡大するだけです。
というわけで、ホームズは自分の力でブラックウッドを止めようと動きます。
それに付き合わされるのが、ワトソン。
そしてアイリーンも、この2人に加わっていきます。
さて、ワトソンといえば、作品によってはホームズの引き立て役のように描かれることもあるのですが、ジュード・ロウのワトソンは非常に成熟した大人で、社会的な信用があって実に有能な男です。
わがままでヤンチャで、謎解きと格闘技しか興味がない、社会人としては「?」が2つも3つもつきそうなホームズに比べると、断然まともです。
本作ではこのワトソンに結婚話が進んでいて、ホームズとの共同生活を解消し、新居に引っ越す話が出てきます。拗ねたホームズのいたずらでワトソンの婚約者を怒らせてしまう場面も。困ったヤツだなあ、という感じで冷静に対処するワトソンが印象的です。
婚約者と新居を見に行くからと、ワトソンが捜査への同行を断るシーンがあります。わかったよ、とひとりで出掛けていくホームズですが、ピストルを置いていってしまいます(わざとでしょうけど)。結局ワトソンは、ピストルを持ってあとを追いました。放ってはおけないんですね。
ホームズとワトソンの関係は、本作では常にそんな感じです。
ホームズにとって、ワトソンは遠慮なく甘えられる人。ワトソンはホームズの素晴らしい才能も、憎めない性格もよくわかっているので、決して見捨てようとはしません。
そんなワトソンのサポートがあるからこそ、遺憾なく能力を発揮できるホームズなのです。
☆持つべきものは頼れる相棒
そして、アイリーン。
ホームズが彼女に心を奪われたのは、決して若さと美貌だけが理由ではないでしょう。頭が切れて、度胸があって、男を手玉に取る才覚に溢れています。
ホームズとは、付かず離れず。時に助け合い、ある時は出し抜かれ‥‥。ルパン三世にとっての峰不二子、と言えばわかりやすいでしょうか。
ホームズとワトソンのコンビにそんなアイリーンが加われば、鬼に金棒状態です。ブラックウッドの計略も風前の灯か‥‥。
実際にはこの3人が揃っていなければヤバかったという展開ですが、さあ、その辺りを楽しみにこの作品を鑑賞いただければと思います。
クライマックスは、まだ未完成で工事中の(19世紀末ですから)タワーブリッジの上です。果たしてどんなアクションが繰り広げられ、どんな結末が待っているのでしょうか?
最後に、アクション以外の本作の魅力について、短く触れておきたいと思います。
それはズバリ、ホームズとワトソン、そしてホームズとアイリーン、この2つの人間関係です。
お互いの長所も短所もよく理解できていて、決してベタベタの関係ではないけれど、いざというときには補い合い、助け合い、支え合える。良き友にして、良きライバル‥‥、アイリーンとの間にはそこに恋愛感情も加わるのでしょうけど‥‥、それも含めて、つまるところの良き相棒。
その関係性が心地よくて、ずっと見ていたくなるような、そんな魅力があります。モリゾッチなどは、正直言って、アクションよりもこちらの方に惹かれたと言ってもいいくらいです。
というわけで、鑑賞後の感想を端的に表せばこうなります。
持つべきものは頼れる相棒。
幼なじみや親友はもちろんですが、長年連れ添った夫婦や恋人がたどり着いたところが、まさにそういう関係性だという話はよく聞きます。また、気がつけば兄弟がそういう存在になっていた、というケースもあるでしょう。
自分にとっての「頼れる相棒」を大切に。
自分が相手にとっての「頼れる相棒」であるかのチェックも忘れずに。
そんなことも、同時に感じたのでした‥‥。
☆シリーズ復活はあるのか?
さて、ラストシーンは戦い終えたタワーブリッジの上。
ホームズとアイリーンが座り込んで、はるか下のテムズ川を見下ろします。
ともに戦った「戦友」とのささやかな祝福の時間、と思いきや、彼女がこの戦いに加わった本当の理由が明らかになります。
実は彼女はモリアーティ教授に雇われていて、ブラックウッドが完成させたある装置(電波を使って遠隔操作するシステム)を盗み出すよう命じられていたのです。
そして彼女はこう続けます。
モリアーティは頭脳明晰な上、恐ろしく邪悪な人間で、ホームズがかなう相手ではない。自分はある弱みを握られているので、モリアーティに逆らうことはできない。
というわけで、このモリアーティ教授との対決は、シリーズ第2弾『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』(2011年)で描かれることになります。
余談ですが、しばらく時間があいた感のある本シリーズ。第3弾の企画が進行中との報もあり、またコロナ禍で頓挫中との説もあり‥‥、というのが現状のようです(例えば、次の記事を参照→「ロバート・ダウニー・Jr.「シャーロック・ホームズ」スピンオフドラマ2作プロデュース」)。
超能力をもたない普通の人間が活躍するヒーローものは昨今貴重だ、との理由で支持する向きもあるようです。それもわからなくはないですが、個人的には別の理由で‥‥「頼れる相棒」との心地いい人間関係が見られることを楽しみに‥‥、本シリーズの復活を待ちたいと思います。
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