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『ホリデイ』レビュー☆人生には休暇が必要だ
お互いの家を交換して旅行する「ホーム・エクスチェンジ」を題材にしたロマンチック・コメディーをご紹介します。季節の設定は冬。クリスマス休暇が、人生を考える大切な休暇になるというお話です。
- 『ホリデイ』
- 脚本・監督
ナンシー・マイヤーズ - 主な出演
キャメロン・ディアス/ケイト・ウィンスレット/ジュード・ロウ/ジャック・ブラック - 2006年/アメリカ/135分
※以下の記事は作品の魅力を紹介するため最小限のネタバレを含みます。あらかじめご了承ください。
☆あらすじ
ロンドンの新聞社に勤めるアイリス(ケイト・ウィンスレット)は同僚と交際中だが、会社のクリスマス・パーティーで彼が他の女性と婚約したことを知り、ショックを受ける。
その頃ロサンゼルスでは、映画の予告編制作の仕事をしているアマンダ(キャメロン・ディアス)が浮気した恋人と別れ、落ち込んでいた。
肩を震わせて大泣きしようとしたが、涙が一滴も出ないことに気づくアマンダ。15歳のときに両親が離婚して以来、悲しいことがあっても涙を流したことがないのだった。
そこでアマンダは、一念発起して休暇をとり、旅に出ることに。
インターネットで探し当てた可愛いコテージ。その主は、ロンドン郊外に住むアイリスだった。2人はメールのやり取りで互いの家を交換することにして、翌日から旅に出た。
到着から数時間ですっかり退屈してしまったアマンダだが、妹の留守を知らずに訪ねてきたアイリスの兄グレアム(ジュード・ロウ)に一目惚れして男女の関係に。
しかし、彼には常に複数の女性の影が付きまとい‥‥。
一方映画の街に来たアイリス。
女優と交際中であることが自慢の作曲家マイルズ(ジャック・ブラック)や90歳を過ぎた元脚本家のアーサーらと知り合い、親交を深めていくのだが‥‥。
☆女性監督 N・マイヤーズの代表作
脚本と監督を兼任するナンシー・マイヤーズは、1949年アメリカ・ペンシルベニア州の生まれ。しばしばプロデューサーとしても活躍し、映画業界でいわば3足のワラジを履きこなす多芸な女性です。
脚本とプロデュースを兼任した『プライベート・ベンジャミン』(1980年)でアカデミー脚本賞にノミネートされると、『赤ちゃんはトップレディがお好き』(1987年)、『花嫁のパパ』(1991年)と脚本家としてクリーンヒットを飛ばし、『ファミリー・ゲーム/双子の天使』(1998年)で監督デビュー。
その後、メル・ギブソンとヘレン・ハント共演の『ハート・オブ・ウーマン』(2000年)、ジャック・ニコルソンとダイアン・キートン共演の『恋愛適齢期』(2003年)と商業的にも大ヒットが続き、4本目の監督作となったのが本作ということになります。
彼女の作品は家族や恋愛に焦点を当てたものが多く、チャーミングで親しみやすい主人公、心温まるストーリー、そして何より、ポジティブで前向きなメッセージに溢れています。基調となるトーンはコメディーですが、笑いそのものを目的とするのではなく、登場人物の心情に寄り添い、温かな目線を忘れません。
そしてしばしば仕事に打ち込む女性を登場させ、女性脚本家・女性監督ならではの視点も数多く提示しています。
ヒロインたちの悩みや成長を描きながら、彼女たちの逞しさやユーモア溢れる生き様を称賛し、さりげない共感と激励のメッセージを送り届けてきました。
まさに本作は、そんなナンシー・マイヤーズの代表作と言えるのではないでしょうか。
ちなみに、ロバート・デ・ニーロとアン・ハサウェイの共演で話題になった『マイ・インターン』(2015年)を最後に、監督作が途絶えた大ベテランの彼女。
今年(2023年)になって久々に新作のニュースを目にするようになりました(例えば →「スカーレット・ヨハンソン&ペネロペ・クルス、「マイ・インターン」監督新作で共演か」)。
すでに70代に突入しているナンシー・マイヤーズの新作。どのようなお話になるのでしょうか。
ぜひ、実現させてもらいたいものです。
☆C・ディアスは泣き笑いがよく似合う
ヒロインのアマンダを演じるのは、キャメロン・ディアス。
カリフォルニア州サンディエゴ出身で10代からモデルとして活躍。21歳で『マスク』(1994年)のオーディションに受かって劇場映画デビューを飾り、『メリーに首ったけ』(1998年)で男たちを虜にする魅力的な女性を演じてブレイクを果たしました。
その特徴はなんといっても、伸びやかな肢体と抜群のスタイル。
『チャーリーズ・エンジェル』(2000年)ではその特徴が遺憾なく発揮され、アクションシーンの熱演も話題になりました。
翌年の『バニラ・スカイ』(2001年)では、一転してシリアスな演技も披露。以降幅広い作品と役柄で、キャリアを積み重ねてきました。
少しタレ目の優しい瞳と大きな口でクシャッと笑う独特のキュートな笑顔は本作でも健在で、特に女性の観客にとって親しみやすく、感情移入のしやすいヒロインという、マイヤーズ監督の狙い通りのキャラクター。見事なハマり役になったと思います。
傷心の旅先で超イケメンとの偶然の出逢い。
旅の恥はかき捨て、とばかりにひと夜の恋に身を投じてみたものの、翌朝見てもその男はあまりにもイケメンで、爽やかで、非の打ち所がありません。
唯一の欠点は、会うたびに彼の携帯にかかってくる女からのコール‥‥。
それも毎回彼女が気づいて携帯を取ってあげて、そのたびに画面に表示される相手の名前を見てしまうというおまけ付き。
この恋、進むべきか、引き返すべきか?
彼女の休暇は、悩み深い休暇になっていきます。
このアマンダ、悲しいことがあっても涙を流したことがないという設定ですが‥‥。
となると、当然気になるのは、いったいどんな場面で彼女が涙を流すのかという点になるわけで‥‥。
タクシーの中で不意にこぼれる涙。
それに気づき、驚くアマンダ。
悲しい。悲しいから涙。でも、涙が出たから、なんだか嬉しい‥‥。
泣き笑いの彼女。
意味がわからず不審がる運転手。
物語の終盤に訪れるその場面は、キャメロン・ディアスの名演によって、まさに名シーンとなりました。
☆K・ウィンスレットは映画の街で強くなる
もうひとりのヒロイン・アイリスを演じるケイト・ウィンスレットは、イギリス出身の女優。祖父母、両親、姉妹のすべてが俳優という芸能一家に生まれ、CMやテレビドラマで経験を積み、10代最後の年にニュージーランド・アメリカ合作映画『乙女の祈り』(1994年)で劇場映画デビュー。
翌年の『いつか晴れた日に』(1995年)でアカデミー助演女優賞にノミネートされ、ジェームズ・キャメロン脚本・監督の大作『タイタニック』(1997年)では、ヒロイン・ローズを演じてアカデミー主演女優賞にノミネート。弱冠22歳にして、世界中に知られる存在となりました。
その後も確かな演技力で数多くの作品に出演し、さまざまな役柄を精力的にこなしてきたケイト・ウィンスレット。
中でも印象的なのは、アウシュビッツ強制収容所の元女性看守を演じた『愛を読むひと』(2008年)での演技です。この作品は、第81回アカデミー賞で作品賞を含む5部門にノミネートされ、彼女にアカデミー主演女優賞をもたらしました。
そんな彼女がロマンチック・コメディーに挑んだ本作。
恋愛に傷つき、自分を捨てた男から離れたい、なるべく遠くへ行きたいと願う哀れな、でも心優しいヒロイン・アイリスを、自然体で好演しました。
アイリスの休暇は、元脚本家のアーサーとの出逢いから動き始めます。
歩行器につかまりながら道に迷って困っている彼を見つけて、ひとり暮らしの家まで送ってあげたアイリス。彼の食べかけのひとり分の食卓を見て、気の毒に思いレストランに誘うのですが‥‥。
問われるままについ身の上話をしてしまい、すると目の前のしょぼくれた老人の口からこんセリフが。
「君のような美しい人を捨てるなんて、そいつはクソだ。アイリス、映画には主演女優とその親友が登場する。君は主演女優なのに親友の役を演じているんだ」
これはもちろん、恋愛に傷ついたすべての女性に向けた、ナンシー・マイヤーズ監督(あるいは、脚本家としての彼女でしょうか)からのメッセージだと思います。
アーサーの激励に感激したアイリスは、目が覚めたような表情でこう言います。
「私の人生なんだから、私が主役よね。でも3年も通ったセラピストはこんな説明してくれなかった」
アーサーから「観るべき名作リスト」をもらったアイリス。その日から、リストにあるハリウッド映画の名作を片っ端から観始めるのです。
そして終盤。アーサーから「クソ」と言われた男、つまり新聞社の同僚が彼女の前に現れます。わざわざイギリスから、クリスマス・プレゼントを持って会いにきたのです。
驚きながらも歓迎するアイリス。
君を失いたくない、という男の言葉にすっかり舞い上がりかけますが‥‥。男が婚約を解消したわけではない、つまり都合のいい関係を続けたいだけだと知り、心を決めます。
強い口調で男をなじり、決然と家から追い出したのです。
追い出される男のびっくりしたような間抜けな顔が印象的です。アイリス自身も、こんな強さが自分にあったなんてと、内心驚いているのがわかります。
ハリウッドの名作を観て彼女は強くなった。誰もが、そう感じるだろうと思います。
アイリスを映画の街へ来させたのは、マイヤーズ監督、このエピソードをやりたかったからかもしれませんね。
さて、このアイリスのパート、というかロサンゼルス編には、もうひとつ洒落た演出が見られます。
それは風。
お茶目な作曲家マイルズと初めて会った時、とても強い風が吹いていて‥‥。
アイリスは目に入ったゴミを取ってもらいながら、この風には「サンタアナ」という名前があって、これが吹くと何かが起きると言われていることを、彼から教えられます。
ちなみに、カリフォルニア州南部で秋から冬にかけて吹く乾燥した強風を、ロサンゼルス郊外のサンタアナ峡谷を吹き抜けることから、そう呼ぶのだそうです。
そして、マイルズと2度目に会ったときも強い風が吹いていて‥‥。
彼を見送ったアイリスは、空に吹き抜ける風を見上げて、微かに微笑みます。まるで、何かいいことが起きる予感がしたときみたいに。
このときのケイト・ウィンスレットのお芝居、なんとも言えず、いい表情をしています。
☆J・ロウは超優良イケメンだが‥
アイリスの兄、超イケメンのグレアムを演じているのはジュード・ロウ。キャメロン・ディアスとは同学年にあたる、イギリスの俳優です。
10代からテレビドラマや舞台で経験を積み、『バイオハザード』シリーズでお馴染みのポール・W・S・アンダーソン監督の監督デビュー作となった『ショッピング』(1994年)で、劇場映画デビューを果たしています。
あのアラン・ドロンの出世作となった『太陽がいっぱい』(1960年)の原作小説を、より忠実に映像化した作品『リプリー』(1999年)で、金持ちの放蕩息子を好演してブレイク。『コールド マウンテン』(2003年)の演技で、アカデミー主演男優賞にノミネート。
以降も『シャーロック・ホームズ』(2009年、レビュー記事はこちら)ではワトソン医師、『ファンタスティック・ビースト』シリーズではダンブルドアと、印象的な役が続いています。
本作では持ち前の端正な容姿を生かして、非の打ち所のない完璧なイケメンを演じています。
おまけに優しい性格で、涙もろい(アマンダとは真逆ですね)となれば、世の中の大半の女性はキュンとなって、このアマンダのパート、というかイギリス編に見入ってしまうのではないでしょうか。
唯一の欠点に見えた女性関係ですが‥‥。
実は彼に電話してきていた2人の女性は、どちらも彼の小さな娘で、彼は男手ひとつで2人の娘を育てるイクメンでもあったのです。しかも奥さんとは死別ですから、彼の人柄はアメリカ国債よりも信用に足ると、保証されたようなものです。
さあ、どうする、アマンダ?
しかし、パパであるとわかれば、それはそれでまた悩ましいことになります。
休暇が終われば自分はロスへ帰るのだが、彼にはロンドンで仕事があり、休暇のたびに娘たちを放ってロスに来るなんてできないし‥‥。自分が会いに来ればいいのだが、そのときは彼の娘たちもいっしょに‥‥、というか、自分は母親の役目ができるのか?
アマンダの休暇は、ますます悩み深い休暇となっていくのでした。
☆J・ブラックはキュートな好青年だが‥
マンガの人気キャラクターの上下を逆さまにしたみたいで、一度聞いたら忘れられない印象的な名前のジャック・ブラック。映画音楽の作曲家マイルズに扮して、ロサンゼルス・パートを盛り上げます。
生まれはカリフォルニア州サンタモニカ。
大学在学中に劇団に参加して、『ボブ★ロバーツ/陰謀が生んだ英雄』(1992年)で劇場映画デビュー。1994年には「テネイシャスD」というバンドを結成して音楽活動も開始している、いわば二刀流選手です。
『ハイ・フィデリティ』(2000年)のオタク青年役でブレイク。女性の外見でなく、心の美醜が見える男性を演じた『愛しのローズマリー』(2001年)は秀逸なコメディーでした。そして、一流小学校の教師になりすました売れないロックミュージシャンの奮闘を描いた『スクール・オブ・ロック』(2003年)が大ヒット。トップアーティストの仲間入りを果たしました。
彼が演じるマイルズは、ジュード・ロウ演じるグレアムのような超イケメンではありません。
しかし、愛嬌のある見た目で仕事はそつなくこなし、いつも人を笑わせている好青年。これはこれで、グレアムとはまた違ったタイプの、女性が憧れる男性像を具現化したキャラクターと言えるでしょう。
傷心を抱えてイギリスからやってきたアイリスは、カリフォルニアで出逢ったこの陽気な青年に好印象をもったようなのですが‥‥。
彼にはひとつ難点が。そうです。女優と交際中なのでした。
しかし物語の終盤、この女優の浮気が発覚して‥‥。
事態は急展開を迎えることになるのです。
というわけで、豪華なキャストが集い、イギリスのロンドン郊外とアメリカのロサンゼルスで繰り広げるクリスマス休暇の物語。それぞれのお話が交互に展開し、ラストへと進んでいきます。
2大女優の共演作ですが、2人はずっと離れたまま。ましてやこの4人が一堂に会することなどないまま終わるのかと思いきや、ラストにはちゃんと4人が集まるシーンも用意されています。
でも、その前に。
豪華なキャストといえば、なんとあのダスティン・ホフマンも、ほんの2カットほどですが本作に出演していました。鑑賞される際は、ぜひ探してみてください。
☆ラストシーンは4人が勢揃い
さて、お気づきかもしれませんが、マイヤーズ監督はこの4人の主要キャストに、それぞれ自分の出身地に住んでいる役を割り振りました。カリフォルニア生まれのキャメロン・ディアスはイギリスへ行ってイギリス出身のジュード・ロウと出会い、イギリスに生まれたケイト・ウィンスレットがカリフォルニアで出逢うのはご当地出身のジャック・ブラックなのです。
役者は演技で勝負するとは言っても、やはりその人が本来もっている雰囲気とか空気感のようなものは、自ずとどこかで表れたりするものです。その意味では、本作のキャスティングは、それぞれの役者の雰囲気・空気感まるごといただき、という感じになっていて‥‥、それがこの予定調和というか、ややもすればご都合主義と批判されかねないストーリーの中に、私たちが違和感なく入っていけるひとつの大きな要因になっているのだという気がします。
試しに、キャメロン・ディアスとケイト・ウィンスレットが役を取り替えたところを想像してみてください。彼女たちの演技力とはまた別のところで、やはり微かな違和感のようなものを、感じる気がしませんか?
そしてこの2大女優、劇場映画デビューが2人とも1994年なのです(ちなみに、ジュード・ロウもそうです)。同じようなキャリアで正反対の持ち味をもつ2人なのですが、偶然と言うには出来過ぎの感があります。
マイヤーズ監督、ここでも狙いましたかね。
いずれにしても、出演者たちのモチベーションにいい効果をもたらしたことは、間違いなさそうです。勝手にライバル心を燃やすということはどの業界にもあるでしょうけど、生き馬の目を抜く、と言われる芸能界ですから‥‥。
そのせいか、両方のエピソードが拮抗して、とてもいいバランスでラストシーンへ向けて収斂していくのがわかります。
そのラストシーン、4人が一堂に会する場面を楽しみに、ぜひ本作をご鑑賞ください。
人生には休暇が必要だ。そのことが、とてもよく理解できると思います。
人生や恋愛に行き詰まったとき、長い休みを取って、これまでの人生について考えてみる。いつもと違うことをして、できればいつもと違う場所で、いつもと違う人たちと会って‥‥、これからの人生について考えてみる。
誰の人生にも、そういう時間が必要です。
人はそういう時間をもつことによって、人生をちょっとだけ豊かにすることができる。
本作が、そう教えてくれているような気がします。
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