当サイトは広告・PRを表示します
『ターミネーター』レビュー☆嵐への備えはあるか?
SFアクション映画といえば、何を置いてもまずはこれ。誰もがそう認めるであろう作品です。ターミネーターとは人間を殺すために作られたサイボーグですが、あまりに人気が出たため、続編では人間の味方として描かれることになりました。
- 『ターミネーター』
- 脚本
ジェームズ・キャメロン/ゲイル・アン・ハード - 監督
ジェームズ・キャメロン - 主な出演
アーノルド・シュワルツェネッガー/マイケル・ビーン/リンダ・ハミルトン - 1984年/アメリカ/108分
※以下の記事は作品の魅力を紹介するため最小限のネタバレを含みます。あらかじめご了承ください。
☆あらすじ
ロサンゼルスの街に強烈な白い光とともに全裸の男が相次いで現れた夜。1984年5月のこの夜から、ファミリーレストランでバイトする平凡な大学生サラ(リンダ・ハミルトン)の運命は動き出す。
テレビのニュースで、自分と同じ「サラ・コナー」という名前の女性を狙った連続殺人事件のことを知ったサラは、怖くなって警察に保護を願い出るが、警察が到着するより前にマシンガンを持った大男に襲われる。
間一髪のところで突然現れた若い男に助けられたサラは、その男に連れられて、激しいカーチェイスに巻き込まれる。
パトカーを奪って追ってくる謎の大男から逃れる途中、カイル・リースと名乗るその若い男(マイケル・ビーン)から驚くべき話を聞かされるサラ。
暴走したコンピューターシステムが核戦争を起こしたことで、未来の地球で人類は激減した。わずかに残った人類は、コンピューターが造り出した機械たちの支配する世界で、地下に潜伏しながら抵抗運動を続けている。
その抵抗運動のリーダーの名はジョン・コナー。サラ・コナーの息子である。
2029年、抵抗運動に手を焼いた機械軍は、ジョン・コナーをこの世から消すため、その母親が彼を産む前に抹殺する作戦に出た。つまり、1984年のサラ・コナーを抹殺することが彼らの目的。そのためにタイムマシンで送り込まれた刺客が、超合金と人工皮膚でできた不死身の殺人サイボーグ、すなわちターミネーター(アーノルド・シュワルツェネッガー)なのだ。
カイルはサラの命を守るために志願して1984年にやってきた、ジョン・コナーの部下だった。
そしてサラとカイルはモーテルに身を隠し、ターミネーターとの決戦に備えてプラスチック爆弾を作り始めるのだが‥‥。
☆不死身で無敵の最強悪役
アーノルド・シュワルツェネッガーは当初、ターミネーターではなく、カイルの役に魅力を感じていたといいます。一方でジェームズ・キャメロン監督も、ターミネーターについて、小柄なヤサ男が無類の強さを発揮するというイメージを描いていたといいますから、なんともおもしろいものです。
実際にシュワルツェネッガーと対面したキャメロン監督は、ターミネーターに関する自信のイメージを即座に変更。その決断が、映画史に残る人気キャラクターの誕生につながったのです。
本作の大ヒットにより、『ターミネーター2』(1991年)などいくつかの続編が生まれ、テレビシリーズやコミックなどへの展開も見せた本企画。コンテンツとしての強さの源はやはりなんと言ってもターミネーターの異様な強さ、不死身さ、無敵さにありますが、それを完璧なまでに具現化したシュワルツェネッガーの人間離れした演技と肉体(!)あればこそ、と言うことができるでしょう。
ライフルで撃たれても死なない。トレーラーに轢かれても起き上がる。そして無表情に追ってくる‥‥。
本作は全体を通して、非常によくできた恐怖映画でもあるのですが、遊園地の絶叫マシンが人気を博すように、病み付きになり、また見たくなる。シュワルツェネッガー演じるターミネーターは、まさにそんな魅力的な悪役となったのです。
ちなみに直接の続編である『ターミネーター2』では、未来から2体のターミネーターがやってきます。
機械軍が送り込んだ新型(型番はT-1000)は、高い戦闘力に加えて、触れた物そっくりに姿を変えられるという液体金属製。それに対して、機械軍から奪った旧型(T-800)のプログラムを書き換えて、ジョン・コナーが過去の自分を守るために送り込んだという設定で、シュワルツェネッガー演じるターミネーターも登場。
悪役だったターミネーターが、「人間を殺さない」というジョンとの約束を守りながら、サラやジョンとともに戦う姿が描かれます。
彼なしの続編は考えられなかったということでしょうし、味方として描きたくなるほど魅力的なキャラだったということでもあるでしょう。
そしてその判断の正しさを証明するように、この続編もその年で一番の興行収入を上げる大ヒットとなったのです。
夜の街に全裸で舞い降りたあの瞬間から、シュワルツェネッガーは映画ファンの心を鷲掴みにしてしまったと言えるようです。
☆ターミネータはどの順で観るのが正解?
「ターミネーター」シリーズ鑑賞時の注意点
続編の話題が出たついでに、シリーズ作品の概要をおさらいしておきたいと思います。
後述するようにすべてのストーリーがつながっている訳ではありませんので、作品を観るときにはちょっとした注意が必要です。
現時点でシリーズ作品は全6作(この記事は、2024年12月に書いています)。
公開順にタイトルと概要を並べるとこんな感じです。
ちなみに以下のリストに登場する「審判の日」とは、コンピューターネットワーク「スカイネット」が人類に対して核攻撃を行なった日。つまり、人類と機械軍の戦争が始まった日を指しています。
- 『ターミネーター』(1984年)
この記事で紹介しているシリーズ第1作。ターミネーターの出現から、サラ・コナーが息子ジョンを体内に宿すまでが描かれます。 - 『ターミネーター2』(1991年)
第1作の直接の続編。サラ・コナーと少年ジョン抹殺のため送り込まれた新型T-1000。2人を守るために再プログラムされた旧型T-800ターミネーターが新型との死闘を演じます。 - 『ターミネーター3』(2003年)
T-1000との死闘から10年後。母サラの病死後、青年となったジョンの前に女性型のターミネーターT-Xが出現。T-800に瓜ふたつのT-850の助けを借りるも「審判の日」を避けることはできず‥‥。 - 『ターミネーター4』(2009年)
舞台は「審判の日」後の2018年。スカイネット率いる機械軍の猛攻にさらされるジョンは、カイル・リースという名の少年と遭遇。一方その頃スカイネットは、T-800の開発に着手していた‥‥。 - 『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(2015年)
第1作の設定だけを借りたリブート作品。1984年に送り込まれたカイルはT-1000の襲撃を受け、屈強な女戦士となっていたサラと出会う。ジョンから聞いていたのとはまったく別の過去に来てしまったと知るのだが‥‥。 - 『ターミネーター:ニュー・フェイト』(2019年)
『ターミネーター2』の直接の続編。かつて「審判の日」を回避したサラは、その後息子ジョンを亡くし、2020年のメキシコで新たなターミネーターとの戦いに臨む‥‥。
というわけで、全6作品の中には異なる3つの時間軸が存在することがわかります。
「ターミネーター」シリーズ鑑賞時に注意すべき点とは、まさにこの時間軸にあるわけですね。
異なる3種類の時間軸を整理する
例えば寅さんシリーズなどは、どんな順序で観てもだいたい同じように楽しめるのですが、それとは根本的に違うというのが本シリーズの特徴です。ですから、『ターミネーター3』のあとに『ターミネーター:新起動/ジェニシス』を観てもさっぱりわからないということですね(まあ、そんなことをする人はいないと思いますけど)。
では、3つの時間軸を整理して見てみましょう。
作品タイトルの代わりに上のリストにある数字を使って表示しますが、この数字はそれぞれの作品の公開順を表しています。
- 第1の時間軸
1→2→3→4(→1)
4は1の前日譚になっています。未来から過去にタイムスリップしているので、こういう循環が可能ですね。 - 第2の時間軸
5
シュワルツェネッガー以外はまったく別キャストで、異なる展開の新シリーズを目論んだ作品。 - 第3の時間軸
1→2→6
1と2のキャメロン監督が制作総指揮としてシリーズ復帰を果たした6は、1と2の正統な続編という謳い文句で、リンダ・ハミルトンの久々の出演でも話題になりました。
というわけで、「ターミネーター」シリーズを鑑賞するときには、これらの時間軸に沿った順序で観ることをお勧めします。タイムスリップを扱ったシリーズだけに、時間の流れが複雑で、ストーリーも枝分かれを起こして多様な展開を見せていますので、迷子にならないように気をつけましょう。
そして何より忘れてならないのは、これだけ多様な展開のシリーズ作品が生み出されるのは、つまるところ第1作の出来栄えが素晴らしく、設定が魅力的だったことの証なのだ、ということですね。
というわけで、そろそろ第1作の見どころに話題を戻したいと思います。
☆嵐に立ち向かうたくましい母親
不死身で無敵の最強悪役がいかに魅力的なキャラクターに仕上がったかについて力説してきましたが、それはいわば副産物、前述したように、監督とシュワルツェネッガーの出会いが生んだインスピレーションによるものでした。
では、キャメロン監督が当初考えていたこの企画の核になるものとは、いったいなんだったのでしょうか?
企画の核、という言い方が大袈裟に感じられるのであれば、ターミネーター以外で監督が一番描きたかったこと、と言い換えてもいいかもしれません。
モリゾッチはこう思います。
それは、普通の大学生だったサラがカイルと出会い、ターミネーターとの戦いを経ることで、たくましい母親に成長していく姿だったのでは。
最強悪役に追われ、ひたすら逃げるシンプルな構成の本作。サイドストーリーなどもなく、逃げる2人と追うターミネーターを描く中で、短くはさみ込まれるサラとカイルの切ないラブシーン‥‥。
逃亡の果てにカイルを失い、爆破でもなんでもとにかく死なない不死身のターミネーター、もはや単なる金属の塊となっても迫り来る刺客と、負傷した脚を引きずり這って逃げるだけのサラとの一騎打ち‥‥。
シリーズ第3作でサラは病死しますが、キャメロン監督が制作総指揮としてシリーズ復帰を果たした第6作では、ジョンが死んだあとの年老いたサラと新しいキャクターたちの戦いを描いています。既存の「サラが先に死んだ」時間軸に対して、正統を謳う自らの時間軸では、「サラはまだ健在」なのです。
原案を作ったジェームズ・キャメロンの頭の中では、『ターミネーター』はサラの物語なのでしょう。
それは、人類の希望となる息子を産み、育てる母の物語。
迫り来る嵐に立ち向かう、たくましい母の物語。
実はそのことは、本作のラストシーンを観れば明らかなのです。
怪我から回復したサラは、メキシコの砂漠地帯の1本道をジープで走っています。ひとり旅、いや厳密に言えばふたり旅‥‥。お腹にはカイルの子供、つまり未来のジョンがいるからです。
やがてガソリンスタンドに立ち寄るサラ。
給油を待つ間も、生まれてくるジョンに聞かせるために、カイルのこと、ターミネーターや未来で起きることについて語りテープに録音するその顔は、もう大学生のサラではありません。
不意にシャッター音がして、見ると、ポラロイドカメラを持ったメキシコ人の子供が彼女の写真を撮ったところ。そして彼女にそれを買ってくれとせがみます。
稼ぎが少ないと親にしかられるという彼に、仕方なくお金を渡して写真を受け取るサラ。
その写真は、2029年の世界で機械軍との戦闘に明け暮れるカイルが肌身離さず持っていた写真でした。おそらく、ジョンがその写真をカイルに与えたのでしょう。戦争しか知らず、恋愛経験のないカイルは、ジョンの母親である伝説のサラ・コナーに淡い恋心を抱いていたのです。その写真は、残念ながら戦闘の最中に焼けて灰になってしまうのですが‥‥。
カイルが持っていた謎の写真という伏線をこうして回収したラストシーンに、突如一陣の風が吹き抜けます。
それを見て、「嵐が来るよ」と叫ぶメキシコ人の子供。
「わかってるわ(I know)」と応えるサラの、遠くを見る悲しそうな目。
静かにフェードインするテーマ曲‥‥。
2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』は先日最終回を迎えましたが、主人公・紫式部の最後のセリフは「道長様、嵐が来るわ」という、彼女の心の声でした。
放送直後から、「ターミネーターかよ」というツッコミがSNSなどに多数寄せられ話題になったことも、記憶に新しいところです。
藤原氏の栄華を見てきた主人公が、源平合戦から江戸幕府の崩壊までおよそ700年続くことになる「武士の時代」の胎動を感じ取った、というラストだったわけですが‥‥。
この記事を書いている2024年12月に、同じような不穏な胎動をまったく感じないと言えば嘘になるでしょう。
年が明ければ、アメリカに2期目のトランプ政権が誕生します。憲法改正はハードルが高いとはいうものの、掟破りの3期目突入から独裁政権化という目が、絶対にないとは言い切れないでしょう。事実上の世界のリーダーであるアメリカが独裁国家になり、米・露・中の3大独裁国家が地球を3分割‥‥。はたまた、そうでなければ核によるバトルロイヤル‥‥。
どちらも、悪夢でしかありません。
国内に目を転じれば、SNS上に故意にバラまかれた嘘で選挙結果が誘導される事例が‥‥。
世界中にこうした動きが広がれば、民主主義は弱体化を通り越して崩壊へ向かい、独裁国家を利するばかりとなるでしょう。
そうした事例の先進国でもあるアメリカでは、SNSによってトランプに勝利をもたらしたと言われるイーロン・マスクが政府の無駄を省く役目に就くそうですが、彼が進めるのは政府の「AI化」だとの説もあります。大量の人員を解雇して、政府の官僚機構をAIで置き換える、ということですね(彼は「xAI(エックスエーアイ)」という生成AIの会社も経営しています)。
AI政府‥‥、これは、本作で描かれる「スカイネット」の始まりなのか‥‥。
嵐への備えはできていますか?
それは想像もしない速さで、私たちのすぐ目の前まで迫ってきているのかもしれません。
私たちのサラは? ジョンやカイルは?
今どこにいるのでしょうか‥‥?
コメント