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『トップガン マーヴェリック』レビュー☆たとえ未来に居場所はなくとも
前作から実に36年ぶりに実現した続編です。
時の流れ、時代、友情、命の尊さ、任務、組織、そして人生‥‥。さまざまな思いがあふれ出し、胸が熱くなる作品です。
- 『トップガン マーヴェリック』
- 脚本
アーレン・クルーガー/エリック・ウォーレン・シンガー/クリストファー・マッカリー - 監督
ジョセフ・コシンスキー - 主な出演
トム・クルーズ/マイルズ・テラー/ジェニファー・コネリー/ジョン・ハム/エド・ハリス/ヴァル・キルマー - 2022年/アメリカ/131分
※以下の記事は作品の魅力を紹介するため最小限のネタバレを含みます。あらかじめご了承ください。
☆あらすじ
トップガンとは、ノースアイランド海軍航空基地に設けられたトップ・パイロットの養成所である。
かつてここを卒業したピート・”マーヴェリック”・ミッチェル海軍大佐(トム・クルーズ)は、ともに学んだ旧友であるトム・“アイスマン”・カザンスキー海軍大将(ヴァル・キルマー)に請われて、30数年ぶりにトップガンに戻ることになる。
そこで彼を待ち受けていたのは、密かにウラン濃縮プラントを稼働させようとしている某国の野望を砕くため、たった数機のF-18戦闘機で某国の領内深く侵入し、そのプラントを破壊するというミッションだった。
F-18に乗るのは久しぶりだ。
そう呟く彼に、ミッションの責任者であるボー・“サイクロン”・シンプソン海軍中将(ジョン・ハム)は、苦々しげに告げた。
君は出動しない。教えるのだ。
トップガンを優秀な成績で卒業した12名の若手パイロットがすでに召集されていた。彼らを訓練しながらミッション遂行のための作戦を立案して、3週間後にそれを実行する6名のメンバーを選ぶ。
それが、彼、すなわちマーヴェリックに課された任務だったのだ。
悩ましいのは、その12名の中にブラッドリー・“ルースター”・ブラッドショー海軍大尉(マイルズ・テラー)が含まれていることだった。
それはかつての彼の親友の息子であり、その親友は彼が操縦するF-14戦闘機の後席に乗り、パラシュート脱出時の事故で死亡したのだった(この経緯は前作に詳しく描かれている)。
息子をパイロットにはしたくない、という亡き親友の妻の頼みで、彼はルースターの海軍兵学校への願書を勝手に破棄したことがあった。母の思いを知らないルースターは入隊が4年も遅れたことで彼を恨み、父親の事故死についても彼を許すことができなくなっていた。
そんなルースターとの確執を抱えながら、彼はこのとてつもなく困難なミッションを達成するための作戦を立案し、実行に向けた厳しい訓練を生徒たちに課した。
2つの奇跡が重ならなければ、無事に生還することは不可能な作戦だった。だが、この作戦以外にミッションを達成する方法はない。
彼は心に誓っていた。
ひとりの犠牲者も出さない。もう誰も死なせたくない、と。
彼の心の支えになったのは、基地の近くでパブを営むペニー・ベンジャミン(ジェニファー・コネリー)との時間だった。ペニーはかつてのガールフレンドで、トップガンに赴任したことで偶然再会したのだ。
心を許しあい、なんでも話せるいい関係。離れている時間があったからこそ、そうなれたのかも知れなかった。
だが、満ち足りた時間は長くは続かない。
唐突に、その時はやってきた。
アイスマンが‥‥、このミッションに彼を推薦したアイスマン海軍大将が、病死したのだ。
マーヴェリック、君を解任する。この作戦は、私が君に代わって指揮をとる。
そう、海軍中将サイクロンは言った。上官であるアイスマンの意向で渋々マーヴェリックを受け入れただけで、その上官がいなくなればもう用はないというわけだった。
さあ、どうする、マーヴェリック‥‥?
☆マーヴェリックは「一匹狼」
マーヴェリック(Maverick)という英語を辞書で引くと、「焼き印のない牛」という訳が出てきます。焼き印を押されていない牛、というところから、群れに属さない者、つまり「一匹狼」を表す言葉になったとされます。
前作『トップガン』(1986年)のマーヴェリックは、まさに群から離れた一匹狼。常識や前例に捕らわれない、孤高のパイロットでした。
ちなみに、「マーヴェリック」とか「アイスマン」という呼び名は、隊員につけられたコールサインと言われるもので、無線を傍受されたときに隊員個人が特定されないため、隊内に同じ名前の隊員がいても無線ではっきり区別できるようにするため、などの理由で軍隊ではよく用いられるようです。
海軍ではコールサインと言われますが、同じアメリカでも空軍ではこれを「TAC(タック)ネーム」と呼んでいるそうです(日本の航空自衛隊も同様らしいです)。
本名とは別の名前で呼び合う関係といえば‥‥、少し前に日本中を騒がせたあの人たち、「ルフィ」とか「孫悟飯」とか、「KIM」というのもありましたか‥‥。正体がバレないためというわけで、軍隊方式だったわけですね(この記事は2023年6月19日に書いています)。
使っている手段はアメリカ海軍と似ていても、目的が大違いのおぞましい集団だったわけで。指示役たちの身柄が確保されて何よりでした。事件の全容解明に結びつくことを、期待したいと思います。
☆いまや組織のお荷物となった頑固者
さて、若くてとびきりの腕利きで、無鉄砲で孤高のパイロットであったマーヴェリックは、本作では60歳手前の、退役間近のテストパイロットです。
本作までの30数年間を、彼はどのように過ごしてきたのでしょうか?
それについてあまり多くは語られませんが、物語の序盤にこんな場面があります。
エド・ハリス演じる上官の海軍少将が、彼の軍歴を見ながら表彰された案件を読み上げていきます。実戦で大きな成功を積み重ねてきた、彼の輝かしい経歴が明らかになります。
そして上官は、こう付け加えます。
本当なら悪くても少将にはなっていたはずなのに、君はまだ大佐だ。なぜだ?
ちなみに軍隊での役職は、一般的に次のようになっているようです。
少尉<中尉<大尉<<少佐<中佐<大佐<<少将<中将<大将<<元帥
右へ行くほど偉いのですが、「尉」「佐」「将」という、それぞれの右側にある漢字が変わるところで、また大きな昇進のハードルがあるようです。
なるほど、前作でマーヴェリックと競い合ったアイスマンは大将になっていて、マーヴェリックの親友の息子ルースターはいま大尉です。
序盤のシーンに戻ると、上官は少将で‥‥、つまり自分と同じ役職になっていても不思議はないのに、お前は何をやっているのか、と言っているわけです。
そのあとの短いやり取りから推察されるのは、自分のいるべき場所はあくまで現場、最後までパイロットでありたい、という強いこだわりがあって、彼自身が将官(「将」のつく役職)への昇進を拒んできたであろうことです。
あきれたように上官は言います。
感情があって命令違反する人間のパイロットは、やがて必要なくなる。
上官から見れば、マーヴェリックのこだわりは無意味で、愚かで、アメリカ海軍のためにならないのです。
ここまでのやり取りで、海軍という組織の中でマーヴェリックがどういう立場にあり、どう見られているかが明らかになります。つまり大将まで上り詰めたアイスマンは皆が敬愛すべき存在であり、その同期でいまだに大佐にしかなっていないマーヴェリックは、いまやお荷物、歓迎されざる存在、見習ってはいけない人物なのです。
マーヴェリックに向かって強烈な逆風が吹いている。
そのことを、私たちの誰もが理解します。
パイロットの技量では誰にも負けないマーヴェリックが、30数年経ってこんな逆風にさらされているなんて‥‥。
人生は残酷だ。
組織って、なんなんだろう?
そんな思いが頭の中を駆け巡りますが、やがてこの上官はトップガンに赴任するようにとマーヴェリックに告げるのです。そして同時に、その苦々しげな口調が、決して本意ではないことを雄弁に物語っています。大将であるアイスマンの指示だから止むを得ないが、マーヴェリックに次の働き場所を与えることに納得していない。そのことは明らかです。
部屋を出て行こうとするマーヴェリックに、上官は言います。
「未来に君の居場所はない。君らパイロットは絶滅する」
振り返ったマーヴェリックは、こう返します。
「そうだとしても、今日ではない」
自信と誇りに満ちたその顔を見ると、胸が熱くなります。まだ映画は始まったばかりだというのに、なぜがウルウルしてしまいます。
自分に向かって吹いている逆風や、未来に自分の居場所がないことなど、彼はとうに承知しているのです。
それでも‥‥、たとえ未来に居場所はなくとも、いまの自分にできることを全うする。それが自分の生き方。
そんな覚悟がみなぎる背中を見ると、その潔さを応援しないわけにはいきません。
前作の若きマーヴェリックより100倍、いや1,000倍カッコいい‥‥。そう言っても、決して言い過ぎではないでしょう。
時の流れ、ということを感じます。
移りゆく時代が、変わらない‥‥いや、変われない男を、1,000倍カッコいい存在にしたのです。
頑張れ、マーヴェリック! 負けるな、もう若くはない頑固者!
☆前作をしのぐ共演者と音楽
古巣であるトップガンに赴任してからも、苦しい日々は続きます。
彼の能力を評価していたアイスマン大将は病気療養中。ここでの上官たちは彼より年下ですが、そしてパイロットとしての実績では彼に遠く及ばないのですが、彼に対する敬意というものはまったくありません。空中戦しか能のない男と、あからさまに見下しています。
やってられないぜ、となるのが普通です。
しかし、マーヴェリックはあくまでベストを尽くそうとします。
ストレスは溜まり放題ですが、そんなときには、ジェニファー・コネリー演じるペニーが彼を癒してくれます。
ペニーのような存在はどんな人にも必要だ。
2人を見ていると、素直にそう思えてきます。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984年)、『フェノミナ』(1985年)、『ラビリンス/魔王の迷宮』(1986年)と10代で立て続けに脚光を浴び、『ビューティフル・マインド』(2001年)で演技派女優の仲間入りを果たしたジェニファー・コネリー。
思えば、前作『トップガン』(1986年)はトム・クルーズをスターダムに押し上げた作品と言われますが、ちょうど同時期に脚光を浴び始めた10代の少女が、本作ではトム・クルーズの立派な相手役になりました。時の流れ‥‥。こういうところにも感じます。
前作の相手役は、『刑事ジョン・ブック 目撃者』(1985年)のケリー・マクギリスが務めました。年上の女性の魅力全開で物語に花を添えましたが、本作の撮影時はすでに60歳を超えています。老いらくの恋となるよりは‥‥と、ジェニファーを起用したのはいい判断だったと思います。
実年齢よりも見た目が若いトムとはベストマッチ。彼女の柔らかい雰囲気が、孤独な戦いを続けるマーヴェリックにとってオアシスなのだと、納得がいきます。
前作との比較ということでいえば、音楽もまた重要な要素です。そして本作にも、前作からのファンの期待を裏切らない、胸熱な楽曲が使われているのですが‥‥。
まず前作の楽曲といえば、ケニー・ロギンスが歌う「デンジャー・ゾーン」はあまりにも有名です。
慌ただしく働くクルーたち。フラッグが上がり、ゆっくりと動き出す艦上の戦闘機。やがて加速され、大空へ飛び去っていく‥‥。オープニングの映像にかぶさる勇壮なサウンドは、すべての人の心を高揚させ、トップガンの世界へ一気に引き込んでいきます。
そしてベルリンが歌う「愛は吐息のように(Take My Breath Away)」も、聞けば誰もが知っている名曲です。「トップガン〜愛のテーマ」という副題が冠せられ、第59回アカデミー歌曲賞を贈られています。
本作では、「デンジャー・ゾーン」はオリジナル・バージョンのまま再びオープニングで使用され、前作を知るファンを歓喜させました。
そして新たにテーマ曲として採用された「ホールド・マイ・ハンド」は、第95回アカデミー歌曲賞にノミネートされています。
アカデミー賞授賞式の当日、そのステージには似つかわしくない破れたジーンズにTシャツ姿、無造作に束ねた髪にほとんどスッピンというスタイルで、レディー・ガガが見せた圧倒的なパフォーマンス‥‥。楽曲の力だけでなく、映画本編に込められた熱い思いをも感じられる素晴らしい歌唱でした。いつまでも、人々の記憶に残り続けるのではないでしょうか。
☆たとえ未来に居場所はなくとも
アイスマンの死後、上官によって解任されてしまったマーヴェリックですが‥‥、ご安心ください。この頑固者は「はいそうですか」と引き下がったりはしないのです。いや、できないのです。
実際には彼は、例のミッション本番に編隊長として参加することになります(どんな手を使ってそうなるのかは、本編を観て確かめていただければと思います)。
このミッション本番こそ、波瀾万丈で手に汗握る本作最大のスペクタクルです。
マーヴェリックはもちろん親友の息子ルースターを指名し、メンバーに加えます。わだかまりが完全に解けたわけではありませんが、マーヴェリックはミッションの最中も無線でルースターを励まし、助言を送り、ミッションを成功させようとします。
しかし、敵国のレーダー網に捕捉され、敵の戦闘機との空中戦に追い込まれます。
数機を撃墜し、味方に指示を送るマーヴェリックですが‥‥。ルースターが敵機にロックオンされ、絶体絶命となってしまいます。
マーヴェリックは咄嗟に急旋回し、ルースターと敵機との間に割って入り、自分が撃たれることでルースターを救います。
煙を吐きながら撃墜されるマーヴェリック機‥‥。
しかし本部の上官からは、犠牲になるのはひとりでいいと、全機に帰還命令が‥‥。
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』と同じ結末が待っているのか‥‥。
この作戦を立案したときにマーヴェリックは心に誓いました。もう誰も死なせたくない、と。
その心のままに行動した結果が、これだったのです。
そしてこの展開は、またしても、前作を知る人の胸を熱くさせます。
なぜなら、マーヴェリックのとった行動は、かつて名パイロットだった彼の父がとった行動と同じだからです。
前作の若きマーヴェリックには、その並外れた度胸と天才的な操縦センスとは裏腹に、心の中にある翳りのようなものが常にありました。それは、同じく海軍のパイロットであった彼の父デューク・ミッチェルが任務中に謎の死を遂げ、その死の理由が海軍の秘匿事項とされていたからです。
しかし物語の終盤、若きマーヴェリックは父の戦友だったトップガンの教官から真相を聞かされます。それは軍事境界線を越えた空域での交戦だったため、国家機密という扱いにされていた任務によるものでした。マーヴェリックの父は、実は数機の味方を救うために自ら多数の敵機の攻撃に晒されて、命を落としたのでした。
それを知ったことで、若きマーヴェリックは親友の死から立ち直り、再び大空を自由に、天才的なひらめきで舞うことができるようになったのでした。
時は移り、時代は巡り‥‥、30数年の時を経て、いま退役間近のマーヴェリックは、父と同じ行動をとって味方の命を、かつての親友の、いつも自分の後席にいて不幸にも事故死した親友の息子の命を、救おうとしたのでした。
時の流れ、時代、友情、命の尊さ、任務、組織、そして人生‥‥。
さまざまな思いが、胸に溢れます。
さて、彼らのミッションは、果たしてどんな結末を迎えるのでしょうか‥‥?
思えば、コロナ禍がなければ、本作はもっと早く公開されていたはずでした。
公開延期を重ね、ようやく日の目を見ることになった「with コロナ」の世界は、同時に血生臭い侵略戦争と進化した生成AIの登場という、撮影時には予期しなかった新たな時代の幕開けでもあったのです。
コロナ禍によって多くの人命が失われた不幸な記憶もまだ覚めやらぬうちに、人と人が殺し合う戦争の愚かさ、おぞましさ。
そして生成AIの進化は、人命こそ奪わないまでも、ある種の職業を脅かし、多くの人から未来の居場所を奪う可能性が指摘されています。
もう誰も死なせたくない、と心に誓い、たとえ未来に居場所はなくとも、いまの自分にできることを全力で行う‥‥。そんなマーヴェリックの生き様は、「with コロナ」の新たな時代に生きる私たちにとって、ひとつの道標のように思えます。
怖くて辛いのはわかるけど
でも諦めないで
私はここにいる、手を握って
もう一度幸せになれる
(「ホールド・マイ・ハンド」より)
本作に描かれたマーヴェリックの頑固で不器用な信念は、まるでレディー・ガガの歌唱のように、力強く、心に響き渡っていくかのようです。
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